日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P625
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西アフリカ・サヘルにおける農耕民ハウサの砂漠化に対する環境認識と対処技術
*大山 修一
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抄録

 発表者は2000年より、西アフリカ・サヘル帯に位置するニジェール共和国の中南部・農耕民ハウサの村(D村)に住み込み、人びとの暮らし-農耕や牧畜の生業形態、人びとの環境利用、鍛冶屋や肉屋などの職能集団の技術史、調理や料理など生産から消費にいたる生活全般に関する調査を実施している。また、生活者の視点からみた砂漠化の原因、土地荒廃に対する住民の環境認識を調査してきた。
 D村の住人はトウジンビエとササゲの混作を基本とする農耕を営む一方で、ウシやヤギ、ヒツジを飼養している。村びとは「近年、村の周辺に荒廃地が拡大し、農業生産が低下してしまった結果、食糧自給が難しくなっている」と語る。調査を進めていくうちに、農業生産のうえでの問題点は「takiの不足が土地の生産力を低下させ、トウジンビエの収量が悪化している」ということが分かってきた。
 ハウサ語のtakiという言葉に肥やしという訳語をあてるが、takiには脱穀や調理で出てくる作物の非食部分やワラ、残飯、家畜の糞や食べ残しの枝葉などの有機物だけではなく、着古された衣類や布きれ、使い古されたゴム製のサンダル、鉄製の鍋や皿、買い物でもらうビニール袋が含まれている。人びとは、固結化した荒廃地に肥やしを積み上げることによって、トウジンビエ栽培に必要な作土層を構成する砂質土壌を作り出せることを知っており、毎日、屋敷内に蓄積する肥やしを集め、自分の所有畑に投入している。
 肥やしの積み上げは、地形面に微妙な高まりを作り、風食や侵食による固結土壌の露出を防ぐとともに、風で飛ばされてくる砂画分を受け止めるトラップ効果、シロアリの活動によって固結土壌を孔隙の多い状態にし、透水性を高める効果、そして土壌の化学性を改善する効果があることが明らかとなった。つまり、農耕民は家畜の糞や家庭ゴミなどの有機物をトウジンビエ畑に投入し、シロアリの生物的な機能を利用することによって、荒廃地に作物の生育環境を作り出していたのである。
 このように、村の屋敷を中核として、有機物が「屋敷(人間・家畜)」→「耕作地」→「作物・草本」→「屋敷(人間・家畜)」という流れで循環し、そこには人間の営みとともにシロアリの生物活動が介在していた。
 1960年代以降、ニジェール国内では道路網が整備され、各地に定期市が整備された。古老によると、1950年代まではロバの背に荷物を載せ、ナイジェリア北部の都市ソコトまで片道4日かけて旅し、農・畜産物を販売していたという。しかし現在では、現金獲得の必要性から、村びとは近隣の定期市で作物や家畜、燃料材、飼料などを販売する。各定期市には10台以上のトラックが集結し、首都ニアメや北部ナイジェリアの都市に向けて農・畜産物が運搬されている。
 首都ニアメの人口は1905年には1,800人だったのが、1945年には7,000人、1970年には7万人、1988年には40万人、2001年には68万人に増加しつづけている。都市の食糧需要は増加し、地方から運ばれてくる農・畜産物を大量に消費している。近年、アフリカの各都市でゴミが散乱している光景をよく目にする。ゴミや屎尿の集積は、都市の内部を不衛生な状態にし、ニアメではコレラやチフスなどの感染症が雨季に発生し、死者が出ることもある。都市においてはゴミ処理の問題が深刻となっているが、ゴミには植物生育に必要な養分が豊富に含まれていることが明らかになっている。
 サヘルにおいて農村における耕作地の砂漠化と、都市のゴミ問題が同時に進行しているのではないかという着想のもと、「都市―農村」間における物質循環を構築し、都市の衛生問題と農村における土地荒廃の防止、食糧自給の達成をめざしたいと考えている。このような問題意識と目標を設定し、2006年6月には、ニジェール国の認可NGO “OLDCS-shara (Organisation pour la Lutte contre la Désertification et l’Amélioration des Conditions Sanitaires” [砂漠化防止と都市の衛生改善プロジェクト]を創設し、活動を開始している。現在、実験段階であるが、都市の生ゴミを農村の荒廃地にまき、シロアリの生物活動と飛砂の受け止めによって緑化を進める計画を立てている。2007年3月より、ゴミに含まれる重金属や環境ホルモンなどの危険性、ゴミの分別方法、住民への協力依頼の内容などを吟味しながら、ニジェール共和国の大統領府や環境省、ゴミ収集を管轄する住区の区長など行政関係者と折衝をはじめている。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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