日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P626
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景観生態学的にみた御笠川流域における景観変遷
*横山 秀司中村 直史
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抄録

1.はじめに
 本研究は,福岡県の御笠川流域を例として,高度経済成長期以前の都市から山地までの景観構造を景観生態学的に明らかにし,現在との比較を試みたものである。まず,大正期に測図された1:25,000旧判地形図の土地利用をデジタル化し,それにデジタル化されたゲオトープ図(地形と地質)上に重ね合わせて,大正期の景観生態学図を作製した。そこで出現したポリゴンをエコトープとして判断した。それを,同様に平成10年測図の地形図から作製したエコトープと比較・検討する。

2.景観変遷
2-1 大正時代の景観生態学図
 まず,前回作製した「福岡圏域の景観生態学図」から御笠川流域の地形・地質分類図を抜き出した。これをベースにして,大正時代の土地利用図をオーバーレイした。ただし,地形・地質分類図は平成時代のものであるので,人工改変地はすべて周囲の地形に合わせて,山地・丘陵,ないしは台地・段丘に修正した。「大正時代の景観生態学図」とも称すべきこの図では,11のエコトープに分類することができる。
 エコトープ1:流域の花崗岩からなる山地・丘陵部であり,森林で被われている。御笠川最上流部の宝満山周辺,牛頸川上流部の牛頸山地などに分布する。
 エコトープ2:花崗岩からなる山地・丘陵部であり,草地(茅場)として利用されていた。四王寺山地,三郡山地,高尾丘陵などでかなり広い面積を占めていた。
 エコトープ3:Aso-4火砕流堆積物に被われ山地・丘陵で,森林であるもの。二日市市街地から石崎付近までの西鉄大牟田線東側の丘陵部分に典型的に現れている。
 エコトープ4:Aso-4火砕流堆積物や段丘堆積物で形成された台地・丘陵上に立地した集落がのる。御笠川上流部の北谷集落,太宰府天満宮とその周辺,中流部の白木原,筒井,雑餉隈,井相田,上麦野・下麦野,諸岡,板付などの集落がこれに該当する。
エコトープ5:Aso-4火砕流堆積物や段丘堆積物で形成された台地・丘陵上を森林が被う。御笠川上流部の北谷,水城の近くに位置する国分集落南に広がる緩斜面,二日市市街地の西などに見られていた。
エコトープ6:台地・丘陵上の畑・桑畑である。エコトープ4の周辺や混在して島状に分布する。
エコトープ7:台地・丘陵上の森林。春日原から雑餉隈付近,諸岡・牟田付近に島状に分布していた。
 エコトープ8:沖積平野上の集落域であり,御笠川の下流域に点在していた。特に,現在は福岡空港の敷地になっている地域に見られた。
 エコトープ9: 沖積平野の水田。御笠川とその支流の沖積低地および谷底平野に広く分布していた。
 エコトープ10:沖積平野の畑・桑畑。下流部の野入付近などに若干分布していた。
 エコトープ11:海浜・砂丘上の集落・市街地であり,博多の旧市街地はここに形成されていた。
  2-2 現在の景観生態学図
 大正時代のエコトープは現在どのように変化したであろうか。平成10年の景観生態学図からエコトープ毎に見てみたい。
 エコトープ1:御笠川最上流部の宝満山周辺,牛頸川上流部の牛頸山地などに残存する。
 エコトープ2,3,4,6,7,10:消滅ないしはほとんど消滅した。
エコトープ5:御笠川上流部の北谷,水城の近くに位置する国分集落南に広がる緩斜面,二日市市街地の西などにわずかに残存。
 エコトープ8:大規模に拡大。
 エコトープ9: わずかに点在するのみとなった。
 エコトープ11:ほとんど変化なし。
 以上のように,農業的土地利用はわずかに残存するのみとなり,森林も半減した。減少した部分は市街地に変化した。また,大正期にはなかったエコトープとして次のエコトープが新たに生じた。
 エコトープ12:火成岩地の人工改変地の市街地。春日市や大野城市の牛頸川上流山地・丘陵地のうち標高約150mまでの地域,および太宰府南の高尾山付近はほとんどが人工改変され市街地となった。
 エコトープ13火成岩地の人工改変地のゴルフ場・その他。12とほぼ同じ山地・丘陵域が人工改変され,ゴルフ場や霊園として造成されたエコトープである。
 その他,山地地域にはダム湖が造られ,河口には埋立地に市街地・工場等ができた。

 今後は,この景観生態学図の精度を高めることと,現地での景観生態学的調査を実施して,景観の構造と機能を詳細に明らかにしていきたい。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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