抄録
1.はじめに
地域特性に応じた有意義な防災対策のため、地形分類の成果を活かしてリアリティのあるハザードマップの提供が求められている。土地条件図とは地形分類に基づき土地の自然的特性を明らかにした主題図であり、地形発達史的な概念で捉えることによりその土地の持つ災害特性を理解することが出来る。土地条件図は最近国土地理院からベクトルデータとして刊行されてきており、GISを使って様々な国土情報と組み合わせて解析することが容易になってきている。本研究では、土地条件図のベクトルデータと実際の地震での建物被害の分布をGIS上で重ね合わせることにより、地形分類と地震被害との関連を解析した。対象としたのは、東海地方における「1854年安政東海地震」、「1891年濃尾地震」、「1944年東南海地震」である。
2.地震による建物被害分布と土地条件
1891年濃尾地震については、村松(1983)による住家被害率分布図をベクトル化し、土地条件図(名古屋南部・名古屋北部・岐阜・大垣・津島・桑名)のポリゴンデータと重ね合わせ解析を行った。住家被害率10%毎の各地形分類面積比を図1に示す。被害率が高いほど出現面積比が高い地形は、谷底平野・氾濫平野、自然堤防などである。被害率が低いほど出現面積比が高い地形は、扇状地、緩扇状地、台地・段丘などである。1944年東南海地震については、大庭(1957)による住家全壊率分布図をベクトル化し、土地条件(浜松・掛川・磐田・御前崎)のポリゴンデータと重ね合わせ解析を行った。住家被害率20%毎の各地形分類面積比を図2に示す。1854年安政東海地震については、行谷・都司(2006)が震度推定をしたポイントデータを建物被害と見なして、土地条件図のポリゴンデータとの重ね合わせ解析を行っている。いずれの結果も、地形分類と住家全壊率の関係は、段丘や扇状地など地盤条件が良いとされている地形での被害率が相対的に低く、谷底平野・氾濫平野などでは被害率が高く、地形分類と建物被害との相関関係はあるものと考えられる。
3.今後の課題
村松(1983)や大庭(1953)の等被害線図は、被害を等値線で結んでいるため実際には住家のない地域も含めて等値線図が引かれている。当時の住家は土地条件のよいところに選択的に建っていたと考えられることから、等値線から被害率を内挿して地形との関係を検討することは適切とは言い難い。今後は、被害率を住家のある地域のみのポリゴンデータとして扱うとともに、ボーリングデータ等も用いて、GISの特性を活かし詳細に被害と土地条件の関係を検討する予定である。
本研究の一部には、科学研究費補助金「空間地理情報の最適利用に基づく「リアリティのあるハザードマップ」の開発」(研究代表者:鈴木康弘)を使用している。
文献
大庭正八(1957)東京大学地震研究所彙報,35
行谷佑一・都司嘉宣(2006)歴史地震,21
村松郁栄(1983)岐阜大学教育学部研究報告,7