日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 609
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利島村における椿生産
*植村 円香
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抄録

東京都利島村における椿生産 Camellia Production in Toshima Village, Tokyo 植村円香(東京大・院) Madoka UEMURA(Graduate Student, Univ.ofTokyo) キーワード:縁辺地域、高齢者、ライフコース、利島村、椿 Keyword: Peripheral Region, Elderly People, Life-Course, Toshima Village, Camellia 1.研究目的と調査方法 日本の縁辺地域では、高度経済成長期以降、農業従事者や若年層の人口流出が続き、深刻な過疎問題に直面している。農業に関しては、営農者の高齢化による衰退が続く中で、農業法人の設立や集落営農など、農家と市町村、JAなどが一体となった政策的な農業再編が図られているが、実質的な成果は上がっているとはいえない。 本発表で取り上げる東京都利島村は、多くの縁辺地域と同様に、農業や建設業、公務・サービス業などを基盤としている。この利島村で注目すべき点は、高齢者の就業率であり、全国平均22.2%に対し、利島村では60.0%となっている。農業従事者の平均年齢は70歳前後であり、そのほとんどは全国一位の生産量を誇る椿生産に従事している。本発表では、縁辺地域において高齢者が地域農業を支える担い手となった要因とメカニズムについて、ライフコース分析の視点から検討する。調査方法としては、31人の農業従事者にインタビューを行い、世帯内の椿生産の位置づけを把握するために、椿生産のみ行っている世帯を生産維持世帯、他の農家の椿を受託して生産を行っている世帯を生産拡大世帯、椿を他の農家に委託した世帯を生産撤退世帯に類型化して、分析を進めた。 2.利島村における椿生産 利島村は、急傾斜地がほとんどを占め、海浜より宮塚山の山頂に近くまで階段状の椿林に覆われていたため、稲作は行われず、戦後直後まで換金性の高い椿が家族全員で行われていた。しかし、近年は、高齢者が椿生産を担う傾向にある。 椿生産の特徴として2点指摘できる。第1に、実を拾う作業が9月から3月にかけて長期間行われることである。収穫時期が長いため、出荷を急ぐ必要がなく、生産者の体調や都合に合わせて作業を行うことができる。このように椿生産は労働投入が粗放的であるために、高齢者でも生産が可能になっている。第2に、椿生産は腐りにくい性格を持っている。利島の年間定期船就航率は50%前後であるが、1月から3月にかけては20%前後となる。そのため、農作物を安定的に出荷することは困難である。しかし、椿は短期間で腐ることがないため、欠航が続いても出荷に大きな影響がでない。 3.農業継続 椿生産者が経営形態を変化させた要因として_丸1_産業構造の変化による家族内分業の変化、_丸2_機械による労働力の省力化、_丸3_高齢化による病気や死亡をあげることができる。 ライフコース分析をもとに、各生産世帯とライフイベントの関連性を整理すると、利島村の椿生産者は、次のように生産形態を変化させてきていると考えられる。親世代に定年退職や加齢による病気・怪我などのライフイベントが生じると、子世代によって生産維持世帯へ移行する。このとき、親世代から子世代夫婦に引き継がれるわけではない。産業構造の変化を背景として、夫は椿生産を従事することなく、それは主に嫁に引き継がれる。このように世帯内の椿生産者の減少は、機械化によって補われてきた。その後、夫が定年退職すると、椿のほかに明日葉・サクユリ栽培などの農作物を多角的に栽培するようになるため、生産維持世帯から生産拡大世帯と移行し、生産が多角化する。しかし、家族の介護や椿生産者自身の高齢化で、生産の多角化が限界となり椿以外の作物が断念される。この時期には、親戚の椿生産者の高齢化・怪我などで椿生産を受託し、生産が拡大する。この場合、椿生産者自身が高齢化しても生産の拡大が可能であったのは、草刈機の導入による作業の効率化や自動車・モノラックなどの運搬技術の向上によるところが大きい。しかし、最終的には、椿生産者自身がさらに加齢すると、家族の介護に加え、自身の病気や怪我などにより椿生産が断念され、生産撤退世帯へ移行する。詳細については当日報告する。

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