日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P703
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岩手山麓春子谷地湿原におけるハンノキ・ヤチダモの胸高直径と樹齢の関係
*高橋 咲保工藤 美沙子吉木 岳哉
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抄録

1.研究の背景と目的  春子谷地湿原では、2000年に滝沢村による湿原保全基礎調査が実施されている(滝沢村 2000 『春子谷地湿原保全基礎調査 調査報告書』)。とくに、湿原東部については、近年の湿地林の拡大・湿原域の縮小が指摘されているため、詳しい調査が行われている。この調査では、成長錐により計測した樹齢と胸高幹周との関係に基づいて湿地林の拡大時期を推定したうえで、湿原に隣接する放牧場の造成が湿地林拡大の原因になったと結論づけている。  しかし、滝沢村(2000)では、胸高幹周の計測の際に樹種を同定していない。現地で観察したところ、この湿地林は主にハンノキとヤチダモの2種類からなる。そのため、幹周から樹齢を推定するには樹種を分けて調査すべきであろう。本研究は、胸高直径と樹齢との関係を明らかにし、湿地林の形成時期と遷移過程を詳細に検討するための基礎データを集めることを目的とする。これによって得られた成果に基づく湿地林の拡大過程については、工藤・高橋・吉木(2008; 本要旨集)にて報告する。 2.調査方法  標本採取は2006年から2008年にかけて行った。湿原東部の湿地林では、冬季の強風や積雪によって根元から倒れたり、幹が折れて枯死したりした樹木が多く見られる。それらのうち、樹種が同定できたものについて、胸高直径を測定した。同時に、個々の樹木個体の生長過程についても確認できるように、高さごとに年輪を円盤状に採取した。   3.結果  湿地林構成樹木のうち、とくに優勢なハンノキとヤチダモについて、ともに17本の標本を得た。 1)ハンノキ (図1)   同じ樹齢でも胸高直径に大きな違いが見られ、相関は良くない。しかし、標本採取地点を湿地林中心域と湿原側縁辺部に分けると、それぞれの中での相関は高くなる。 2)ヤチダモ (図2) 胸高直径10 cm以下の標本では、胸高直径と樹齢の関係に良好な相関がみられる。胸高直径10 cm以上については標本数が少なく、これまでのところ、胸高直径と樹齢の関係について近似式を得るには至っていない。 4.考察 1)ハンノキ  湿地林中心域と湿原側縁辺部で胸高直径と樹齢の関係が異なる。湿地林中心域では生長速度の個体差が小さいのに対して、湿原側縁辺部では同じ直径であっても樹齢が10年以上違うこともあり、個体差が大きい(たとえば直径約4 cmで16~32年)。現地で湿地林中心域と湿原側縁辺部のハンノキを観察すると、湿地林中心域では真直ぐに生長しているハンノキが多いのに対して、縁辺部では根元が捻じ曲がっていたり、同一株から多数の萌芽が見られたりする。このような形状が示唆するハンノキの生長にとって厳しい環境が、胸高直径と樹齢との間の個体差として現れていると考えられる。 2)ヤチダモ  得られた17本の標本のうち、胸高直径の大きな2本以外のデータは胸高直径と樹齢の関係が高い相関を示している。今回得た標本は胸高直径10 cm以下のものが多く、大きいものは直径20~25 cmの2本だけである。湿地林内には胸高直径が大きなヤチダモも多く生育しているが、倒木が少ないため、これまでのところ直径から樹齢を推定できるだけの近似式を得るに至っていない。

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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