日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P705
会議情報

関東平野における風系構造の把握に向けた地表面粗度による観測風の補正手法
*瀬戸 芳一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. はじめに
 これまでにも,関東地方の海陸風に関する調査は多く行われている.藤部・浅井(1979)により示された,関東全域に及ぶいわゆる大規模海風に関しては,鉛直観測の結果などから,中部山岳域に発達する熱的低気圧に吹き込む流れや谷風,海風が組み合わさって形成されていることが示されている.それぞれの風系の特徴を明らかにするためには,鉛直構造に注目する必要があると考えられるが,鉛直観測はその期間,間隔ともに制約が多く,定量的な把握が難しいことが問題である.
 そこで本研究では,複数の継続的な地上観測データを用い,観測点周囲の土地利用状況から推定した地表面粗度によって,観測高度の違いによる風速への影響の補正を行う.これにより,観測データから直接は求めにくい,大気の鉛直運動の指標となる収束・発散量などを求め,海陸風をはじめとする局地風系の鉛直構造について,定量的に把握していくことを目的とする.

2. 資料と方法
 継続的な地上観測データとして,気象庁によるアメダス観測資料に加えて,海上保安庁により提供されている灯台での観測資料などを用いる.これらの観測データは,風の観測高度が異なるため,その影響の補正が必要である.
 大気境界層内の風速の高度による変化の割合は,地表面の凹凸(粗度)に依存し,大気安定度が中立に近いとき,その風速分布は対数則で表される(近藤,1999).また,ある観測点における風向別の粗度は,観測点周囲の土地利用状況から推定することができる(桑形・近藤,1990).そこで,国土交通省により提供されている,約100mメッシュの土地利用データ「国土数値情報(土地利用細分メッシュデータ)」を利用して地表面粗度を推定し,風速の補正を行う.

3. 粗度の推定
 土地利用種をそれぞれの地表面状態の特徴により分類し,各風向に対して観測点から中心角45度,観測高度の100倍の半径(最大2.5km)を持つ扇形を考え,GISを用いて各カテゴリーの占める面積を算出した.その比率から,実験式により粗度を推定する.
 先行研究で用いられた1976年の土地利用データは,今回使用する1997年のデータよりも土地利用の区分が細かいため,1997年のものと同じ区分に再分類し,土地利用種ごとの総面積に応じて実験式の係数を変更した.
 推定された粗度値の信頼性を検討するため,観測所の移転などがないアメダス74地点について,桑形・近藤(1990)で示された粗度との比較を行った.その結果,1976年の再分類前のデータで0.88,再分類後で0.78の相関係数が得られた.誤差が生じる要因として,再分類後の粗度の最大値が小さくなることや,面積の算出方法の違いも考えられる.
 今回推定したデータどうしで再分類の前後を比較すると相関係数は0.91となり,風速の補正に用いる限りでは,実験式の変更による推定誤差の影響は小さいと判断した.
 16方位別に1997年のデータを用いて粗度を推定した結果,海沿いの観測点では0.1cmと小さいのに対し,市街地に位置する観測点では,80cmから120cm程度と粗度が大きい傾向が見られた.

4. 風速の補正
 灯台の観測点などでは,地表面から風速計までの高さをそのまま観測高度とすることが,適切でないことも考えられる.そこで,数値地図50mメッシュ(標高)データ(国土地理院発行)を利用し,粗度と同様に,風向別に観測点周囲の平均標高を求め,観測点の標高との差から,観測高度の補正についても検討を行った.
 算出された地表面粗度と観測高度を用い,2004年7月の観測データ(30分間隔)について,対数則に基づく風速の補正式(近藤,1999)により,統一高度50mの風速を推定した.
 近接した観測点では,補正した風速がほぼ同じになることが期待される.そこで,灯台地点とアメダス地点が約3km以内にある3地点について,風速の比較を行った.
 補正を全く行わない場合には,灯台の観測点のほうがアメダス地点より風速が大きく,風速差が1.5m/s以内の事例が約41%であるのに対し,3m/s以上となる事例が約36%あった.
 粗度による補正を行うと,風速差1.5m/s以内の事例は約50%に増加し,3m/s以上の事例が約21%に減少した.加えて,高度補正を行った場合,全ての風向について行うと,風速差1.5m/s以内の事例は約44%,3m/s以上の事例が約23%と,風速差が大きくなってしまうが,灯台地点のZ0=0.1cmの風向にのみ行った場合,風速差1.5m/s以内の事例が約53%,3m/s以上の事例は約18%まで減少し,観測点間の風速差が最も小さくなった.
 高度の補正は,全ての風向について行ったほうが良いわけではなく,一部の地点・風向について考慮したほうが良い補正結果が得られる場合があることがわかった.

著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top