日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P707
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ヤマセ卓越時の北上盆地での南風の解析
日下 博幸木村 富士男*川口 純
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抄録

ヤマセは、夏季に北日本の太平洋側に吹く低温・湿潤な風である。ヤマセは、オホーツク海高気圧を起源とする総観規模の特徴をもつ一方で、局地風としての一面をも持つ。冷夏の年が減少傾向にある現代でも、ヤマセはほぼ毎年見られる。いったんヤマセが吹走すると、数日~十数日間吹走することが多い。ヤマセは下層雲を伴うことが多く、ヤマセの期間中は日照不足に陥るため、昔から農業に対するヤマセの情報は必要不可欠であった。 オホーツク海高気圧の研究と共に、オホーツク海高気圧下の海洋や海上の下層雲の研究が行われている。しかし、オホーツク海高気圧下には、常に冷たい海水が存在するとは限らず、気温と水温の差が大きいときほどオホーツク気圧が観測されやすいということもない(力石,1995)。また、ヤマセの霧の発生は夜間に多く、霧が発生する前に雲低高度の低い層雲が現れ(遠峰ら,1988;阿部ら,1989;Tomine et al.,1991)、カリフォルニア沖の海霧や層雲と共通点がいくつか見つかっている(児玉,1995)。しかし、ヤマセ卓越時の霧の発生条件については、ある程度の推測を含んでおり、海洋や下層雲との関係については明確には分かっていない。 衛星観測が整備されると、衛星データを使って雲や温度などのデータを取り出すことが可能になった。川村(1995)では、NOAAやGEOSATなどの衛星を利用し、雲・地表面温度・積算水蒸気量・日平均地球表面放射・海上風などのデータを得ており、AMeDASなどの地上観測の結果と矛盾しない。 1990年代に入ると、モデルの研究が活発化し、ヤマセにおける研究でもモデル研究が盛んに行われている。永田(1995)では、総観規模のヤマセを良く捉え、その後のメソスケールにおけるヤマセについても、良い結果を得ているといえる。しかし、前田ら(2005)において、2003年の冷夏の数値予報の結果を示しているが、十分な結果が得られていない。 これらの研究に対して、内陸部に達しているヤマセに特化した研究例は少ない。ヤマセは、北日本の太平洋沿岸に襲来することはよく知られているが、内陸部まで達する経路があることは、それほど知られていない。特に盆地地形が多い東北地方では、ヤマセが内陸部まで達する現象がよく見られる。NOAA/ AVHRRや、TERRA/AQUA MODISなどの衛星画像からも、下層雲を見ることで、東北地方内陸部まで達している様子を確認することができる。ヤマセは必ずしも下層雲を伴っているわけではないので、AMeDASデータから低温域を見る必要がある。仙台湾から流入するパターンが多く、北上盆地・福島盆地・山形盆地などへ、ヤマセが入り込む。本研究の研究対象地域として北上盆地に注目した。北上盆地は南北に細長い盆地で、ヤマセが北上高地を越えないとすると、盆地内ではChanneling効果によりコリオリ力がキャンセルされ、空気が淀んだ状態になる。そのような場では、気圧傾度のみによって風が吹く(Whiteman et al.,1993)。ヤマセが吹走するとき、多くの場合は日本の北東側にオホーツク海高気圧があって、総観規模での気圧傾度は北から南になっている。総観規模の気圧傾度が関係するとなれば、北上盆地では北風が吹くはずである。しかし、実際には北上盆地では、南風が吹いている。 谷の中を吹く風としては、日本では冬季における伊那谷の例が有名である。伊那谷は谷が深いので、谷に沿って風は吹き、風は山を越えない(Kuwagata et al.,1994)。また、木村(1991)では、北上盆地北端に位置する盛岡での冬季の季節風の変化にも触れており、風速が弱いうちは地形に沿って風が吹くが、風速が強くなると山から風が超えてくる。奥羽山脈の地形障壁としての効果に限界があるとされる。これらの研究は冬季の季節風のものであるが、ヤマセの場合は風速が弱く、地形に沿って風が吹くことが予想される。しかし、夏季のヤマセ卓越時に盆地内の風の性質を研究した例は少ない。

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