日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P716
会議情報

河成段丘を用いて推定した内陸部の隆起量および広域的地殻変動
―新潟県,五十嵐川と刈谷田川の河成段丘―
*上條 孝徳鈴木 毅彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに
 新潟県中越地方は地殻変動の激しい地域であり,地殻変動履歴を持つ多くの活褶曲や断層地形が見られる.記憶に新しい新潟県中越地震もこの影響によるものである.地殻変動を示す指標として隆起量が求められている.海成段丘面の旧汀線高度は,離水時の海面高度と離水後現在までの隆起量との和である(米倉 ほか 編,2001)ことから,海成段丘の発達する沿岸で隆起量は求めやすい.一方内陸部の隆起量は,地形面が形成された年代や形成当時の高度が不確かなことが多い(吉山・柳田,1995)などの問題があり解明されていない点が多い.しかし吉山・柳田(1995)により同一気候下において形成された2つの河成段丘面(MIS2とMIS6に形成された段丘面)の比高を用いて内陸部の隆起量を求める事ができるTT法が提案された.調査対象地域である信濃川水系の五十嵐川・刈谷田川は河成段丘が発達しており,隆起量を基に広域的な地殻変動を論ずることが可能であると考える.
2.地域概要と問題点
 越後平野東縁には新発田―小出(構造)線(山下,1970)がある.これを境に東西の地形は丘陵から山地へと大きく変化する.またこの構造線は断層運動や褶曲構造など中越地方の活構造に大きな影響を与えていると考えられ,新潟県中越地震の震源もこれに起因すると言われている(産業技術総合研究所 活断層研究所センター HPより).五十嵐川の支流守門川はほぼ新発田―小出構造線上に位置している.新発田―小出構造線沿いの北部には五頭山地や月岡断層,南部には六日町盆地西縁断層などがあり,構造線付近の地域で第四紀の隆起や沈降の様相を知る必要がある.新発田―小出構造線沿いの北部地域や南部地域においては活断層の活動様式,変位量などが論じられているが,構造線中部地域である五十嵐川・刈谷田川付近での隆起量を用いた議論は未だ少ない.従って両河川の河成段丘を用いた隆起量の推定は重要であると言える.
 対象河川は河成段丘の発達が良く,8面の河成段丘が認識できる.両河川は信濃川の支流の中でも特に河成段丘地形が顕著に発達し,内藤(1975)や小林ほか(2002)などにより段丘面区分や地形発達史,地殻変動が論じられてきた.本研究の目的は吉山・柳田(1995)によるTT法を用いて内陸部の隆起量から中越地方の広域的な地殻変動様式を考察する事にある.隆起量が求められると地殻変動を論じる材料となる.そのためには各段丘の形成年代を精査する必要がある.段丘の形成年代決定にはテフラ層を用いるのが有効だが,当地域のテフラ層については不明な点が多く,特に中位段丘高位のものから高位段丘において段丘の離水年代が明確に示されてはいない.小林ほか(2002)は五十嵐川・刈谷田川両河川に計10面の段丘面を認識している.また広域火山灰から,具体的な年代を明言していないものの編年がされている.段丘面区分は刈谷田川においてはほぼ全ての段丘面が先行研究によって示されているが,五十嵐川上流部や五十嵐川支流の守門川の詳細な段丘面区分は行われていない.本研究ではそれらも扱っている.
3.結果と今後の展開
 五十嵐川上流及び守門川は段丘面の連続性から発表者の区分で言うL-2面に相当する.L-2面は五十嵐川中流部において浅間草津火山灰がのることが報告(小林ほか,2002)されているため,MIS2に離水したと考えられる.しかし上流部においては段丘礫層が1-2mと薄く段丘化の進行が遅れた事が示唆される.また小林ほか(2002)にはm-1面のフラッドローム直上にカミングトン閃石のテフラが存在する事が報告され,MIS6指標火山灰である飯縄上樽(c)火山灰のものではないかと発表者は推測している.以後詳細な現地調査にてこれらを明らかにしていく.

著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top