日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P718
会議情報

2007年能登半島地震・新潟県中越沖地震および2008年岩手・宮城内陸地震における詳細建物被害分布と地形・地質的要因
*八幡 啓山崎 晴雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに
 地震動による建物被害と地形・地質との間には密接な関係があることは多くの研究で明らかにされている.しかしその多くは地域区分により建物被害の大きい地域が軟弱地盤地域に当てはまることを確認するにとどまっている.地形・地質学的観点から建物ごとの被害差に注目し,より局所的な要因について言及した研究はない.よって現在の地震動予測が防災に実質的に役立っているとは言い難い.地震によりどこがどのように揺れ,どのような建物がどのような被害を受けるのかを把握する必要がある.
2.研究手法
 本研究では2007年能登半島地震,新潟県中越沖地震および2008年岩手・宮城内陸地震の直後において,比較的狭い調査範囲での全棟の建物被害調査を行った.これにより地震動の距離減衰などの影響を排除し,地域的な地形・地質条件との関係を議論することを可能にした.被害程度の記載に際しては調査員の主観を極力排除できるよう,独自の基準で複数の客観的項目を設定した.この調査項目に基づき,被害程度を重い順にA~Fに分類した.また建物の属性(用途,階層,屋根の形状,建築年代など)も考慮に入れた.地形・地質条件は,空中写真判読による微地形分類図,既存のボーリングデータ,常時微動観測などにより推定した.これらのデータをGISにより重ねあわせてマッピングし,建物被害の傾向と要因を探った.
3.各地震における調査概要と結果
3.1.能登半島地震
 調査範囲は震度6強を観測した輪島市門前町走出地区周辺の約0.3km2である.空中写真判読により崩壊地,扇状地(急傾斜),扇状地(緩傾斜),山間谷底,谷底平野(高位),谷底平野(低位),山地の7つに分類できる.総建物数は576棟で,A13棟,B11棟,C45棟,D40棟,E156棟,F311棟となった.建物のほとんどが扇状地(緩傾斜)上に立地している.鬼屋川の左岸で被害が大きく,家屋被害が局所的な地形・地質条件の影響を受けている可能性を示唆している.
3.2.中越沖地震
 調査範囲は古くからの柏崎市街地のうち沖積面と砂丘の境界部にあたる約0.15km2である(震度6強を観測).総建物数は499棟となった(A17 棟,B7棟,C32棟,D36 棟E239棟,F168棟).そのうち一戸建て住家は279棟である.その被害分布には偏りが見られる.調査範囲の西側で被害が大きく,その中でも被害の大きい建物はある程度固まって存在している.一戸建て住家278棟のみを見た場合には砂丘と沖積層の地形面境界付近以北において被害が大きい.また瓦葺の建物305棟のうち瓦の崩落が確認されたのは7棟に過ぎず,一方基礎に被害が見られたのは499棟中197棟に上った.ほとんどの建物で瓦の崩落が見られた能登半島地震とでは被害の特徴が明らかに違う.このように建物被害が増大した要因として砂丘斜面における側方流動が考えられる.
3.3.岩手・宮城内陸地震
 調査範囲は震度6強を観測した岩手県奥州市衣川区古戸地区周辺の約0.2km2である.北股川,南股川が衣川(北上川支流)に合流する付近の左岸に位置する.地形は山麓緩斜面,I~IV段丘,段丘内谷底,山間谷底の7つに分類することができる.総建物数は173棟である.被害程度はA~C0棟,D1棟,E22棟,F130棟と,75%が無被害であった.前述の2つの地震と比べ被害が軽微である.

 当日はその他詳細な被害の傾向・要因について発表する.

著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
Top