日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P726
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多雪地域における融雪池“タネ”を活用した消雪システム
-長野県飯山市の事例から-
*中山 絵美子
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抄録

はじめに  身の丈にあまる積雪がある地域では、どのように雪に対処しているのだろうか。長野県飯山市において、市街地では流雪溝を設置しているが、郊外では除雪機と併せて融雪池“タネ”を活用している家庭がある。“タネ”とよばれる池は、農具や野菜の洗浄用、観賞魚の養殖用、防火用など、多様に使用され、さらに冬季には“冬ダネ”も併設して除雪用に利用されている。“冬ダネ”は、秋の農作業が一段落すると、家の周りに掘って作られ、春の農作業始めには埋め戻される、深さ30cmほどの池である(第1図)。現在では、“タネ”をコンクリート張りにし、冬になる度に“冬ダネ”を設ける家庭は減少しているが、“タネ”そのものは除雪機の補助的な役割として、現在でも消雪に活用されている。 “タネ”の機能とシステム  多雪環境のもとに暮すには、とりわけ屋根雪の処理が重要である。第2図は飯山市小字柄山(からやま)の、“タネ”を活用していない家屋周辺の積雪深変化の様子を示したものである。家屋の周りに雪が堆積すると、採光量が減り、また、屋根上の雪と地面の積雪がつながってしまうと、融雪時の沈降力で庇が破損するなど、家屋に被害のでる恐れがある。また、屋根から落下した雪は硬く締まり、それらを移送させる事は困難を極める。このため、“タネ”は、日当たりの悪い家の北側や、屋根からの雪がちょうど落下する位置、出入り口付近などに、施設されている。 “タネ”の水は、滞っていると融雪能力が低下するため、取り入れ口に落差を設けたり、取水口に障害物を置いたりするなどして、取り入れた水を発散させ、水を「動」の状態にするための工夫が凝らされている。 各家庭には、集落共同の用水から“タネ”に水を引き入れる。頚城丘陵沿い南向き斜面に位置する小字顔戸(ごうと)の事例では、丘陵中に湧出する清水を3箇所から集落に取り入れ、集落内を標高の高いところから低いところへ枝分かれさせ、82世帯の家屋に対する大小144個の“タネ”に通水している。 本報告では、日常の除雪作業において、限られた時間で効率良く消雪を行うために、“タネ”を活用している事例について、参与観察の結果をまじえて紹介し、多雪環境への人々の対応に関して考察する。 本研究は(財)なべくら高原森の家の協力を得て調査を行った。

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