日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P725
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岩手県赤川・松川流域における水環境とその利用
酸性河川流域での農業水利に着目して
*中村 俊一
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抄録

 岩手県八幡平には,大正3年から昭和47年まで硫黄鉱山である松尾鉱山が操業していた.昭和30年代には,松尾鉱山は「東洋一の硫黄鉱山」と呼ばれ,日本の硫黄の約3分の1を生産するほどの繁栄を誇っていた.しかし,その繁栄と引き換えに,硫黄鉱床と水,酸素が反応し,坑道内から強酸性の坑廃水が半永久的に排出されるという負の遺産を残した.それにより,下流の赤川流域だけでなく,合流後の北上川にまで被害を及ぼしていた.
 しかし,このような環境下においても,赤川流域では昔から稲作が続けられ,現在でも水田地帯が形成されている.これには,何らかの水利用の工夫があると考えた.そこで本研究では,赤川と周辺の松川流域における水環境を主に農業水利に着目しながら調査し,赤川が地域に与えた影響と,それに地元住民がどう対応してきたのかを明らかにした.
 その結果,赤川における水質の変化に対する稲作への影響を明らかにできた.それにともない,赤川からの灌漑用水を使用していた水田で,他の河川に水源を求める切り替え水路工事が行われた.昭和27年にすべての赤川用水田において切り替え水路工事が完了し,それ以降赤川の水は全く利用されることが無くなった.地元住民が鉱山側に交渉を続けてきた成果である.切り替え水路完成後は,主に松川の水を利用しながら水路網が発達してきた.
 このように,この地域の農業水路網は赤川の強酸性化と地形条件を背景として,現在の水路網が形成された.また,切り替え水路建設の迅速な対応と赤川用水を徹底的に利用しなかったことで,被害を最小限に抑えることができたといえる.

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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