日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P728
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インドMP州チラカーン村の農業変化
1990年代中葉と2000年代中葉の土地利用から
*荒木 一視
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抄録

1.背景と目的  近年のインドの経済成長は多くが指摘するところであり,デリーやバンガロール,ムンバイなどの大都市では中産階級の台頭など,豊かな生活スタイルが注目されている。その一方で成長する都市に対して,インドの農村部は停滞しているというイメージで,あるいは都市と農村間の経済格差の拡大という文脈で語られることが多い。マスメディアの多くにおいてもそのような論調が大勢を占めている。しかしながら,両者を断絶したものとして二項対立的にとらえるだけではなく,都市の経済成長の影響が農村・農業に与えた影響をきちんと把握する必要があるのではないか。また,インドの都市サイドからの情報発信が多いことと比較して,農村からの情報発信は極めて少ないというのが現実でもある。このような問題意識にたち,本報告では地方のインド農村の実態を,農業的な土地利用の変化に重心をおきながら示すことを試みる。 2. 対象村と資料  対象とする農村はインド,マッディヤ・プラデーシュ(MP)州インドール市郊外の農村,チラカーン村である。インドでは一般的に村ごとにまとめられた土地台帳が整備されている。この土地台帳には村単位に一筆ごとの面積,所有者名,作物名,休閑地かどうかなどの情報が記載されている。またこの情報は「パトワリ」と呼ばれる管理官によって,毎年の雨季作,乾季作ごとに情報が書き加えられている。今般1990年代中葉と2000年代中葉の2時点の土地台帳データを入手することができた。この土地台帳のデータをもとに,現地で農民に対しておこなった聞き取り調査の結果を踏まえて,1990年代後半以降に起こったインドの地方農村の農業変化の状況を検討したい。なお,1990年代中葉のデータは1991年の「新経済政策」による経済自由化政策が動き出してから,あまり間もない時期のものであり,その後10年を経過した2000年代中葉のデータとの比較は,経済成長下におけるインド農村・農業の変化を検討する上では,妥当なものであると判断した。 3. 結果と考察  大枠での雨季作の大豆と乾季作の小麦という農業的土地利用の基本形は10年を経ても大きく変わってはいない。そうした中で,指摘できるのは野菜の作付けが増えていることである。カリフラワーやジャガイモ,タマネギ,ニンニクなどが目立った品目である。その面積は大豆や小麦に比べて多くはないが,野菜栽培は集約的な性格を持ち,面積の割には多くの労働力を必要とする。村での聞き取りでは,大豆と野菜の間では,単位面積当たりの労働力には数倍から十倍以上の開きが確認された。こうしたことから,近年増加傾向にある野菜栽培はなお全体に占める割合は大きいわけではないものの,労働者雇用を通じて村内経済に与える影響は少なくないと考えられる。

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