日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P729
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日本列島の花崗岩および大理石石材産地の分布に関する研究
*乾 睦子北原 翔竹内 渉赤羽 和樹
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キーワード: 花崗岩, 大理石, 石灰岩, 建築, 石材
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抄録

日本列島はユーラシア大陸と北米、太平洋、そしてフィリピン海プレートがぶつかりあう沈み込み帯に位置し、世界有数の地震・火山大国である。この複雑な地質のため、狭い列島の中に多種多様な石材が産出してきた。全国に建築石材産地が点在し、建造物の内外装仕上げ材として用いられたことのある美しい石材も多かった。しかし、日本では、建築石材といえば欧米の文化のように感じられ、国内産の石材に関してはあまり認知されていない。開口部の少ない石造建造物が日本の気候に不向きだということも原因のひとつであろう。ほとんどの産地が小規模で資源量が豊富とは言えない中、すでに採掘されなくなった石材も多く、過去に石材を産出していたという記憶さえも失われつつある地域があるのが現状である。国土の自然環境を保全するには、国土を知る必要がある。資源量が少ないからこそ、日本の石材資源に関する知識を記録にとどめておくことが必要ではないかと考える。さらに、石材は大変耐久性が高いため再利用・リサイクルが推進されるべき素材であるが、それを推し進めるためには、技術開発にしても、実施にしても、業界の意識の高まりが欠かせない。石材に関する正確な知識はこのための啓蒙活動にも有用であると思われる。本研究は、日本列島各地の風土を形成してきた石材リソースの全体像を把握することを目的として、まずは建築外装材として多く用いられる花崗岩と、同じく内装材に用いられる石灰岩・大理石とを対象として、国内の主な産地とそれらが適用された建築物の調査を実施したものである。
具体的には、まず文献から全国の花崗岩および大理石の石材産地をリストアップした。文献としては、庭石、墓石等の用途毎の断片的な資料や、その石材が利用された有名建築物の解説書、各地域の地質・地誌に関する解説書などを参考とした。次に、主要な産地の過去と現在の石材産出状況や、石材の利用用途などを、自治体、石材組合や業者、地域の博物館や研究機関等へのヒアリングにより調査した。花崗岩の大規模な産地は、瀬戸内海沿岸部の領家帯周辺に多く、白亜紀から古第三紀の貫入花崗岩が多く分布する地域と一致していた。墓石としての需要が多いが、現在でも、建材として採石されている産地もあった。石灰岩の産地は、山口県など国内で数箇所ある著名な石灰岩地帯にある産地と、それ以外の小規模な産地とに大別された。大規模な産地は礁成石灰岩の台地であることが多く、産出量がまだあるとしても、セメント産業など工業材料としてしか採掘されていないことがほとんどであった。その他の用途としては土産品用程度などであった。小規模な産地は、地質学的には、付加体中にレンズ状に産する石灰岩体が採掘されていたケースが多く、現在ではほとんど採掘されていない、あるいは採掘地点が特定できない産地もあった。
次に、上で調査した石材の外観的特徴(色彩、模様、質感)を、実際に内外装として利用されている建造物等の調査により観察・記載した。花崗岩については、東京都心部に明治・大正時代に建造された公共あるいは公共性の高い商用建築物の外装を調査することができたほか、各産地からサンプルを提供していただくことができた。結晶粒径の大小、カリ長石による桜色味の有無、の他、ムラの有無、表面仕上の種類など様々に異なる印象の外観を呈していた。竣工後数十年を経た時期に、窓枠等の大規模改修に合わせて外壁の清掃を行った建物がいくつかあったが、花崗岩を厚いブロック状に加工した石積造(構造上は別として)の外壁の場合、雨等による汚れ以外の問題はほとんど発生していないことが分かった。石灰岩については、現在石材としての産出がほとんどないが、多種の国産石灰岩を内装材として用いた国会議事堂の内装で現物を調査することができた。色の多様さに加えて、角礫様、脈様、化石によるものなど様々なテクスチャーがあり、バラエティ豊富であった。この調査の結果えられた、保全が必要な岩石資源知識を、日本列島石材リソースマップとしてまとめた。今後は、対象石材を増やすのと並行して、石材産地や周辺地域の風土への理解を深め、石材資源に関する知識の継承・保全に役立てたいと考えている。

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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