日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 320
会議情報

WRFモデルシミュレーションにおける2007年8月猛暑時の最高気温起時の空間的特徴
*渡来 靖中川 清隆福岡 義隆細矢 明日佳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに
 2007年8月15~16日は関東平野北西内陸域を中心に猛暑となり、16日には熊谷で40.9˚Cの日最高気温を記録した。前回の発表(地理学会2008春;要旨集p.148)では、この日の領域気象モデルによる再現実験をおこない、猛暑の原因として十分な日射による加熱とフェーンの影響を示した。一方、日射加熱のみにより鉛直1次元的に地上気温が決定された場合、理論上の日最高気温起時は太陽南中3時間後頃となるはずであり、8月16日の熊谷における南中時刻は11時47分なので日最高気温起時は14時47分頃と予測される。さらに移流等の影響が強まれば、出現時刻がより早まると考えられる。そこで今回は、前回と同じ事例を対象に領域モデルによる数値計算をおこない、最高気温起時の空間分布と日最高気温分布の関係について調べた。
2.計算条件
 数値実験には、非静力学モデルWRF(Version 2.2)を用いた。計算領域は、関東平野を中心とした東西約400km×南北約400km、水平格子点数150×150、格子間隔2.7kmの領域(nest1)と、その内側に関東平野全体を含む格子点数220×220、格子間隔900mの領域(nest2)を設定した。鉛直層は38層とした。計算期間は、2007年8月14日9時(日本時間)を初期値として、8月18日3時までの90時間とした。初期値・境界値には、気象庁メソ数値予報モデル(MSM)GPVデータの0時間予報値を用いた。今回の実験では、地形データや土地利用データを国土数値情報のデータに置き換え、より現実的な境界条件の下で計算を行った。また、都市域の地表面フラックス等は、WRFモデル内蔵の都市キャノピーモデルを用いて計算された。
3.結果
 2007年8月15日の数値計算結果(nest2)によると、日最高気温が15~16時頃出現する領域は、関東平野中西部を中心にまとまって分布していることが分かる。この領域は、14時の地上風における海風等の侵入がない静穏な領域に対応している。日最高気温が高い領域は、出現時刻の遅い領域とほぼ重なる。一方、日最高気温起時が正午前の領域が海岸付近を中心に見られるが、これは海風の侵入により早い時間から気温の上昇が妨げられるためと考えられる。
 8月16日の計算結果を見ると、日最高気温起時の分布には15日と同様の傾向が見られる。16日の高温は北西からのフェーンが影響していたことは前回の結果からも明らかであるが、高温域が扇状に分布していることもフェーンの影響を示唆している。ドライフェーンの場合、フェーンによる昇温は最高気温の位相にはあまり影響しないと考えられるが、関東平野北西域では、谷間を抜けて来た低温なgap flowの影響により地表面温度の昇温が妨げられ、最高気温起時が早まっていると思われる。
 今回の結果から、関東平野北西内陸域が日最高気温起時の遅い地域となっており、その地域でより高温となる傾向が示された。このことは、十分な日射による加熱があり海風等の移流の影響がないことが高温の主な原因であることを示唆している。
著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top