日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 419
会議情報

過疎地域における定住者と転出者の意識構造
-東北地方の某町を例に-
*山口 泰史齋藤 信也石川 敬義高橋 順二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに
 地方での人口減少が深刻化し、“過疎”という言葉がわが国で初めて用いられたのは、1967年3月に政府が策定した「経済社会発展計画」といわれている。
 これまで、過疎地域に関する研究には一定の蓄積があるものの、その多くは、人口減少と産業構造変化との関係や、過疎地域での生活環境などを分析したものであり、定住者や転出者の「意識」にまで踏み込んだ研究は少ない。
 本研究では、過疎化がなぜ発生し、何が問題で、これからどうなっていくのかという、過去・現在・未来の時間軸において地域の再活性化を検討すべく、過疎地域自立促進特別措置法で「過疎地域」に指定されている東北地方の某町を対象として、町内定住者と町外転出者に対して地域の生活環境等に関する意識調査を行った。

2.調査の概要
 本研究では、町内13地区のうち、分析が可能であった2地区について、郵送形式によるアンケート調査を行った。
 具体的には、定住者については、住民基本台帳を基に、2007年11月1日現在で両地区に住む全世帯(414世帯)に調査票を送付し、転出者については、転出届を基に、2001年4月から2007年10月の間に両地区から町外へ転出した全世帯(単身を含む143世帯)に調査票を送付した。なお、回答は世帯主に行ってもらった。
 定住世帯の回収数は223通、転出世帯の回収数は30通で、回収率はそれぞれ53.9%、21.0%であった。

3.分析結果
(1)転出者の意識
 「転出前、町での生活に改善や対策が必要だと感じることがあったか」という問いには、「あった」が26人(89.7%)と大半を占めた。具体的(複数回答)には「通勤・通学・通院・買い物が不便」が最も多く、以下、「除雪・雪下ろしが大変」「やりたい仕事が少ない」が続いた。
 また、町と比べた現在の生活については「とても満足している」「満足している」が18人(60.0%)で、「どちらとも言えない」が10人(33.3%)であった。具体的な満足点(複数回答)は「通勤・通学・通院・買い物が便利」が最も多く、以下、「除雪・雪下ろしが楽」「やりたい仕事ができる」が続いた。
 さらに、将来、町に戻る意思があるかについては「ない」「どちらとも言えない」が24人(82.8%)であったが、そのうち10人(41.7%)は戻るための条件が「ある」と答えた。具体的な条件(複数回答)としては「医療・福祉の充実」「交通の便の改善」「安定した雇用環境」「教育・子育て環境の充実」という回答が目立った。

(2)定住者の意識
   定住者の72.9%(140人)は「長男」または「姉妹だけの長女」であったが、転出者も「長男」または「姉妹だけの長女」が56.7%(17人)と過半数を占めており、必ずしも“長男・長女だから残る”という構図は成り立たないと考えられる。
 また、「現在、町での生活に改善や対策が必要だと感じることはあるか」という問いには大多数(189人、90.4%)が「ある」と答えた。具体的(複数回答)には「通勤・通学・通院・買い物が不便」「除雪・雪下ろしが大変」という回答がそれぞれ過半数を占め、以下、「得られる収入が少ない」「やりたい仕事が少ない」「人が少なく活気がない」が続いた。
 さらに、「今後も町に住み続けたいか」という問いには、「住み続けるつもりである」「できる限り住み続けたい」が82.0%(182人)と大半を占めた。しかし、「交通基盤」「地域医療」「雇用・所得環境」「農林業の経営環境」の7項目について、町の将来像(おおむね10年後)を「改善する」「現状維持」「悪化する」から選んでもらったところ、すべての項目で「悪化する」という回答が過半数を占めた。

4.最後に
 転出者については、転出前の不満が、現在の生活の満足に直結している。それゆえ、多くはUターンを望んでいないが、中にはUターンの条件を挙げる“翻意可能組”も存在する。一方、定住者の大半は今後も定住の意思があるものの、現在の町の生活環境に対しては様々な改善要望や意見を持っており、町の将来像についても明るい展望が少ない。したがって、今後は本研究で明らかになった諸課題を解決するための“処方箋”が必要であり、そのための科学的、客観的データの蓄積が重要と考えられる。
著者関連情報
© 2008 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top