抄録
I.研究目的・意義・圏域設定手法
本研究は、1980年から2000年にかけて、日本における結節地域の構造がどのように変化してきたかを目的としている。結節地域の中で、都市圏の設定に関しては、金本・徳岡(2002)の方法が定着しつつある。本研究は、これを基に検討を加え、1980年、1990年、2000年の3時点の都市圏設定を行うと同時に、新たに都市圏外の地域を対象として、小規模都市圏である「就業圏」を定義し、さらに就業圏にも含まれない市町村を「独立圏」と定義して、これらに注目した。就業圏と独立圏は、これまで都市圏を形成していない地域として一様に扱われてきた地方中小都市や中山間地域における圏域であり、人口減少や高齢化が先行するこうした地域において、人々の生活行動がどのように変化しているのかを明らかにすることに研究的意義がある。また、圏域構造の変化を詳しくみるために、中心に帰属する郊外を一次郊外、そこに帰属する郊外を二次郊外というように定義し、郊外の多次元構造を前提とした分析を行った。
II.圏域設定の結果
圏域を設定した結果、都市圏の圏域数は横ばいで推移した(1980年:105→1990年:114→2000年:113)。都市圏を構成する市町村数は、1990年ピークとして減少に転じ(1,944→2,044→2,030)、都市圏の拡大は頭打ちの傾向にある。これに対し、就業圏は、圏域数は一貫して減少しているものの(224→209→204)、構成市町村数は増加を続けた(1,007→1,048→1,091)。何れにも属さない独立圏の市町村は、大きく減少した(255→154→109)。3時点とも独立市町村に属した市町村は94を数えたが、71市町村が島嶼部と北海道で占められる。残りは、交通網の整備から立ち遅れた本州・四国・九州の山間に位置する市町村で、その数は全市町村の1%にも及ばない。なお、構成市町村数の減少は、いずれも合併によるものではない(3,256→3,246→3,230)。
III.圏域の特徴
都市圏は、構成市町村数が頭打ちないし減少に転じたが、面積は拡大を維持しており、人口も1億を越えてなお増加傾向にある。面積・人口増加に寄与したのは中心以外の部分で、都市圏の成長は収束せずに外延的に拡大していることが数値から読み取ることができる。就業圏は、構成市町村数の増加とともに面積も1980年~2000年の間に15%拡大した。人口は14百万前半で微減傾向にあるが、郊外に限れば増加している。独立圏は、全国に占める市町村数や人口こそ1%を割り込んだものの、面積は依然として全国の20%以上を占める。経済発展に大きく寄与はしないかもしれないが、長期にわたる国土の管理において重要な役割を持ち続ける。
IV.圏域構造の変動
都市圏と就業圏の構造は、近年になるにしたがって郊外が拡大している。中でも、中心のみや一次郊外を持つ圏域の数が減少傾向にあるのに対し、二・三次郊外を持つ圏域は規模・割合ともに増加するという共通した特徴がある。とりわけ就業圏は、就業圏中心から郊外へ、あるいは一次郊外から二次郊外へといった外延的に構造が変化する動きが少なくない。このような郊外の拡大は、自動車通勤を前提とすれば、中心市街地での就業機会の増大ではなく、新中心市の周辺部ないし一次郊外における就業機会拡大に拠っている可能性が高い。こうした変動メカニズムはどのようなものであったかを明らかにすることを最終目的として、分析および調査を継続している。
謝辞 本研究は、平成20年度国土政策関係研究支援事業の助成を受けて行った研究成果の一部である。都市圏の設定に際しては、東京大学金本良嗣教授よりデータを直接ご提供いただいたものを使用した。
文献 金本良嗣・徳岡一幸 2002. 日本の都市圏設定基準. 応用地域学研究 7: 1-15.