抄録
1. はじめに
地球温暖化に伴い気温や降水の平均値のみならず,気候の極端現象の発現頻度や発現時の強度が変化するのではないかと考えられている(e.g. IPCC AR4, 2007).WMOとCLIVARが組織したETCCDMIは,気温や降水の極端現象(Climate Extremes)に関する指標を考案し,世界の各地域で降水特性(降水量,降水頻度,降水強度等)の長期変化傾向を把握する努力を続けており,その成果はAlexander et al. (2006)にまとめられ,IPCC AR4にも採録されている.しかし,東南アジアにおいては極端現象の長期変化傾向についての研究は非常に限られた地点でしか行われていない.本研究では,GAME・MAHASRI等のプロジェクトを通じて東南アジア諸国の水文気象局から入手した日雨量データを用いて,降水の極端現象の長期変化傾向とその地域性を報告する.
2. データ・品質管理
本研究の対象国は,ミャンマー・タイ・ラオス・カンボジア・ベトナム・マレーシア・シンガポール・ブルネイ・フィリピンであり,長期間(少なくとも30年以上)の日雨量データが利用可能である251地点を選択した.各地点の日雨量データに対して,Wijngaard et al. (2003)にならい4種類の均質化テストを適用した.全地点中3地点では4種類の均質化テストでデータが均質でない可能性があると判断されたが,図中ではそのまま表示した.
3. 結果
それぞれの降水指標に対しノンパラメトリックなMann-Kendall検定を適用して長期変化傾向を評価した.なお,トレンドの大きさは線形回帰式から求めた.年降水量は紅河流域で減少トレンドが目立つが領域全体では増減に偏りはない.降水日数(日雨量1mm以上)が領域全体で減少傾向が顕著であり,年降水量に大きな変化がないため,結果として平均降水強度は領域全体で増加傾向である.日雨量50mm以上の日数は,紅河流域で減少し,ベトナム南部で増加している.また,マレーシアの西岸でも減少している.1961年から1990年を基準期間とし, 日雨量の95(99)パーセンタイル値を地点ごとに求めた.この基準となるパーセンタイル値以上の日雨量を各年毎に積算し,トレンドを求めた.95(99)パーセンタイルを超える降水は紅河流域・バンコク付近・マレーシア西岸で顕著な減少傾向あった.一方,ベトナム南部では95(99)パーセンタイルを超えた降水は増加傾向である.フィリピンでは強い降雨の発現頻度が増加している地点が相対的に多い.ミャンマーでは乾季の長さが長期化する傾向であった.