日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 814
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ホスト・ゲスト・メディアによる観光空間の構築
「鎌倉」を事例に
*齋藤 譲司
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抄録
_I_ はじめに
 従来の観光地理学は,社会的・経済的な機能と構造に注目した観光地の形成過程の研究が中心である。一方,文化人類学や社会学では,観光と文化との関わりを指摘する研究がさかんである。観光客がもつ場所のイメージや観光地の訪問は,既存の文化を刺激し,新しい文化を構築する。そして,高度に情報化した現代社会では,観光地のイメージ形成がメディアによってなされる点が重要な課題であると指摘されている。近年,地理学においても文化的次元に注目した研究は,新しい観光地理学の方向性として認知されはじめている。このような文化的要素による観光地の成立は,構築主義の視点から指摘することができる。本研究では,観光地(ホスト),観光客(ゲスト),メディアの三者が特定の場所イメージを共有できる地域を観光空間と定義した。そして,三者による場所イメージの共有の程度が観光空間の構築に影響する点を神奈川県鎌倉で論じる。

_II_ ホスト・ゲスト・メディアの分析
 本研究ではホストとして地域政策として観光空間の構築に関わる鎌倉市行政,と観光空間に居住する地域住民を扱う。行政は法令により既存の景観を保存し,開発による改変を規制することで「古都」イメージに合う景観を保存している。地域住民は近世以前の建築物を鎌倉の観光資源と認識し,さらに「古都」イメージに合う「鎌倉らしい」景観の維持に努めている。これが鎌倉における行政の観光政策と地域住民の鎌倉観光への態度である。
 ゲストの分析では鎌倉市観光課が実施した「鎌倉市観光基本計画策定調査報告書」を用いて,ゲストの動態やゲストの鎌倉に対する意識を分析した。ゲストは史跡の存在や自然の豊かさを感じ「古都」をイメージしていた。そしてゲストが訪れる資源は近世以前の建築物が中心であった。このようなゲストが持つイメージと「古都」イメージに合う観光資源を巡ることがゲストの鎌倉観光である。
 メディアの分析では鎌倉を紹介したガイドブックを使用し,記述された言説を読み解く。本研究では「ブルーガイド鎌倉2007」を使用し,書かれた言説を観光資源別に分類した結果,10種類に分類できた。「ブルーガイド」の言説からは歴史的で文化的な「古都」であると同時に自然が豊かな観光地を読み取れた。このような言説による「古都」イメージがメディアの中の鎌倉である。

_III_ 三者の観光への関わりと地域性
 鎌倉北部では,「古都」と結びついた行政の観光政策が行われ,関与は強い。地域住民は観光資源への認識があり,景観維持に積極的であるため,地域住民の鎌倉観光への態度は強い。ゲストは「古都」を感じられる観光資源を訪れているため,ゲストの鎌倉観光への関わりが強い。メディアには「古都」をイメージする言説が多く使用されメディアの中の鎌倉が構築されている。つまりこの地域では,四者が「古都」イメージを矛盾なく受け入れ,観光空間が構築されている。
 鎌倉駅周辺の地域では行政の観光政策が不十分であり,地域住民の鎌倉観光への態度は皆無である。ゲストは鎌倉観光の拠点として鎌倉駅を訪れるため「古都」の拠点として関与は強い。メディアは観光資源の掲載がなく,メディアの中の鎌倉は「古都」と結びつかないが,商店の掲載により,「商業地」として関与が強い。つまり,四者とも「古都」イメージを抱けず,観光空間は構築されない。
 鎌倉西部地域では行政の観光政策が近代以降の建築物にまで及び,行政の関与は強い。しかしこれらの建築物は「古都」イメージを感じられないため,地域住民,ゲスト,メディアに観光資源として受け入れられない。「古都」を感じられる高徳院のみを観光資源として受け入れ,観光空間の構築が不徹底である。
 鎌倉東部地域は「古都」と結びついた行政の観光政策が行われ,関与は強い。しかし,土地の細分化による景観の喪失により地域住民の鎌倉観光への態度が希薄になった。また「古都」イメージに合う資源はあるがゲストの鎌倉観光の関与は弱く,メディアの中の鎌倉は「古都」をイメージする言説の使用が少ない。かつては「古都」イメージを共有でき,観光空間が構築されていたが,構築が衰退した地域である。

_IV_ おわりに
 本研究ではホスト・ゲスト・メディアに注目することで観光地鎌倉がこれらの相互作用の中から構築されたものであることが明らかになった。鎌倉北部では四者が「古都」イメージを共有できたため,矛盾のない観光空間が構築されていた。しかし,他地域では「古都」イメージを共有しきれず,観光空間の構築は不徹底であった。観光地における主体間の関係を明らかにできた本研究は,今後の観光地理学の進展に貢献するものと思われる。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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