日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 409
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京都府伝統工芸品産地における若年従業者の就業意識と産地活性化への取り組み
*山本 俊一郎
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抄録

1. はじめに 京都には,京友禅,西陣織をはじめ,伝統的工芸品を生産する多数の伝統産業産地が存在する。しかしながら,1970年代以降,当該産地では職人の高齢化がすすみ,後継者不足のなか,技術・技能の喪失が危惧されている。自治体,各産地組合などを中心に,人材育成事業や販路開拓PR事業などがすすめられているが,現在まで目立った効果は得られていない。実施している人材育成事業は,はたして当該産業に従事する若年従業者が求めているものと適合しているのか。産地の活性化に対してどれほど有効であるのか。現在まで,当該産地では支援事業の効果について詳細な調査がなされていない状況にある。  そこで,本研究では,第一に,京都府内の伝統産業産地における若年従業者に対する多様な支援事業について把握することを目的とする。第二に,伝統的工芸品である「京石工芸品」を生産する京都府石材業産地を対象に,若年従業者の就業意識と当該者による産地活性化への取り組みについて把握する。調査データは,主に京都市産業観光局商工部伝統産業課,京都府石材業協同組合加盟企業,京の伝統産業わかば会,京都伝統産業青年会,石青会などへのヒアリング調査に基づく。 2. 若年従業者間の異業種交流事業の進展 当該産地では自治体による数多くの技能者・後継者育成事業が行われてきた。なかでも,京都市が実施している伝統産業技術後継者育成制度は注目される。主な目的は,若年従業者への育英資金の交付であるが,これらの受給者が自発的に集まり,異業種交流グループ「京の伝統産業わかば会」を形成し,勉強会,展示会を積極的に開催している点は非常に興味深い。その他,各産地組合が組織する青年部の上部組織である京都伝統産業青年会をはじめ,当該産地には,勉強会,展示会を主とした数多くの異業種交流事業の場が形成されている。 3. 石材業における京石工芸品生産の実態  京都府石材業協同組合に加盟する企業の大半は墓石を扱っており,全73社のうち「京石工芸品」を生産している企業は7社にとどまる。さらに7社のうち,工芸品のみ生産している企業は1社にすぎない。1970年代以前は,墓石も手彫りであり,「石をたたく」職人が多数存在していたが,2009年現在,墓石の大半は完成品が中国から輸入されており,その生産工程もほぼ機械化されている。そのため当該産地では,彫りの技術が急速に失われつつある。 4. 技能者・後継者育成事業の課題  調査の結果,現在の技能者・後継者育成事業の実施の際に留意すべき課題としては,以下の4点が指摘できる。  第一に,当該産地では「生産者」と「消費者」を結びつける媒体の役割として,実際にものづくりをおこなう若年従業者がどれほど存在し,どのような就業実態にあるかについてほとんど把握できていない。詳細な産地の実態調査を早急に行う必要がある。  第二に,現在の若年従業者は,明確に「自分の作品」と認識できる製品づくりを希望する傾向にある点を指摘できる。京焼(清水焼)や京石工芸品のように大半の生産工程を自らの手によって手がけることが可能な業種には,若年従業者が比較的多い。よって,京鹿の子絞りや西陣織のように,細かく分業体制が構築されている産地では,全体の工程を最低限継承することで,「自分の作品」を製作できるような支援プログラムづくりが必要である。  第三に,若年従業者は技術面の支援と同時に,ニーズの把握,新規販路の開拓,原材料の調達,生産コストの削減など経営面に関する知識も欲している。技術の習得が優先課題であることは当然だが,安定した収入を得るための経営ノウハウも継承していく必要がある。  第四に,伝統工芸技術を学んだ若年従業者が就職できる場があまりにも少ない。京都にこだわらず,日本全国での求人情報の収集やインキュベーション施設の設置など,幅広い産業・雇用支援策を実施する必要がある。 本調査にあたっては,平成19年度福武学術文化振興財団歴史学・地理学助成金を使用した。

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