抄録
1.はじめに
日本の土地条件図は、2006年度から国土地理院よりベクトルデータとして刊行されており、容易に他のGISデータと組み合わせて解析することが可能である。例えば小荒井ほか(2007)は、土地条件図の地形分類ポリゴンデータを過去の地震災害の建物被害のポリゴンデータとオーバーレイし、建物被害の高い地形と低い地形を抽出した。また、地形分類の結果を地震時における地盤応答特性という視点でまとめ直し、一種のハザードマップである「揺れやすさマップ」あるいは「液状化しやすさマップ」を作成することも容易である。本研究では、地形分類データを活用した災害脆弱性評価手法について検討する。本研究は科学研究費補助金「空間地理情報の最適利用に基づくリアリティのあるハザードマップの開発」(研究代表者:鈴木康弘名古屋大学教授)の費用を使っている。
2.地形分類と災害脆弱性の関連性解析
濃尾地震による濃尾平野の被害と安政東海地震・東南海地震による遠州灘の被害を対象に、地形分類と建物被害との関連性のGIS解析を行ったところ、段丘や扇状地では建物被害が相対的に小さいが、谷底平野・氾濫平野、海岸平野・三角州で建物被害が大きく、自然堤防でも建物被害が大きな箇所があり注意を要するという結果であった(小荒井ほか:2007)。この建物被害の傾向は、地形条件の他に、一般的には地盤条件が良いとされている自然堤防上でのより局所的な地盤の良否が反映されている可能性が大きい。建物被害の高い遠州灘沿岸の菊川と太田川流域を対象に、静岡県ボーリングDBをGIS上に展開し、N値の小さな泥層の厚さと建物被害との関連性についてGIS解析した。住家全壊率が60%以上の地域は、N値が10以下の泥層が厚い(5m以上)地域と対応が良い。土地条件図の地形分類を単純にハザードリスクに読み替えるだけでなく、浅層の地質地盤条件等も考慮する必要がある。
中越沖地震の災害調査結果では、砂丘の縁の部分で地盤の側方流動等が発生して建物被害が集中する箇所が認められた。柏崎平野は河口が砂州の発達で閉塞気味となって後背湿地のような環境で堆積しており、その上に砂丘の砂が堆積している。砂丘が隣接する地形によって、砂丘の縁の災害脆弱性が変わってくる。また大規模造成宅地では、盛土の部分で地盤変状が顕著に現れていた。単に地形分類結果だけで災害脆弱性を評価するだけでなく、地形形成過程をふまえたより詳細な地形分類の検討が必要性である。
3.地盤脆弱性に関する地形分類の読み換え表の提案
本研究では、地形分類の災害脆弱性への読み替え表を提案する。災害に比較的強いと考えられてきた砂丘は、砂丘の境界部が後背低地的な環境だと災害脆弱性が高くなる。谷底平野・氾濫平野と海岸平野・三角州とでは災害脆弱性に大きな差はなく、軟弱泥層の厚さなど浅層の地質地盤条件の違いが災害脆弱性に効いてくる。人工改変地は盛土部で災害脆弱性が高く、特に谷埋め盛土では地滑り的な斜面変動が生じうることから、人工改変前の地形情報も重要である。
以上の観点から次のように地震による災害脆弱性を整理した(表1)。砂丘に対しては、古砂丘については災害脆弱性がやや小さいとしても、完新世に形成された新砂丘は砂州・砂堆と災害脆弱性は変わらないものと考え、災害脆弱性は中程度とした。また、砂丘の縁辺部については接する地形が後背低地的な環境の場合に、災害脆弱性がやや大きいとした。谷底平野・氾濫平野に関しては、海岸平野・三角州と同様に災害脆弱性はやや大きいとし、その中でも平野の出口が砂丘や砂州・砂堆等で閉塞されて軟弱泥層が厚く堆積している可能性が高い地形の場合、災害脆弱性をより高く判断することとした。これらの地形分類の判断は、ボーリングデータ等の浅層地質の情報を判断材料に加えた方が有効であるが、そのようなデータが必ずしも入手できるとは限らないので、地形分類情報のみで判断することを前提とした提案としている。また、人工改変地についても、切土であれば災害脆弱性は中程度、盛土の場合はやや大きいとし、特に規模の大きな谷埋め盛土(新旧地形の比較により、盛土幅、盛土厚、谷の傾斜等から判断)の場合に災害脆弱性を大とした。