抄録
I.はじめに
GISの普及により,空中写真を衛星データと同じ取り扱いで最尤方分類し,土地被覆分類図を作成することは容易になってきた(黒木ほか,2007など)。しかし,空中写真による最尤方分類は,R(赤,LANDSAT/TMデータのバンド3相当),G(緑,同バンド2相当),B(青,同バンド1相当)の可視領域の波長帯データのみを用いたものとなるため,高分解能の衛星データのように赤外域の反射率特性を反映した詳細な土地被覆分類図とはなりにくい。そのため,研究課題によっては作成する土地被覆分類図の分解能(メッシュサイズ)を調整する必要がある。メッシュサイズを大きくすれば,いわゆるメッシュマップのような方眼の集まりとしての土地被覆分類図となるが,例えば都市域における土地利用の状況を大局的に捉える場合はその方が望ましいこともある。
次に,空中写真による教師データの取得に際しては,いわゆる見た目判断の精度が求められるが,季節毎の植生の色調の変化や尾根谷による影など,撮影時期や条件によっては判読に多少の困難を伴う。以上より,空中写真による最尤法分類をより精度の高いものにするには,最尤法分類の演算にしても教師データの取得にしても,可視領域の波長帯データを増やすこと,すなわち異なる季節間の空中写真を1つのデータとして合成すればよいと考えられる。そこで筆者らは,撮影季節が異なる二時期(春と冬)の空中写真をGISで合成し,6バンド (RGB×2時期)のコンポジットデータを作成した。これを使用すれば,教師データの取得に際しては,GIS上で二時期を比較しながら行え,かつ,二時期の色調(可視領域の波長帯データ)を考慮した最尤法分類となるので,一枚の空中写真を用いた最尤法による土地被覆分類よりも高精度となることが期待される。本発表では,通常の空中写真(RGB3バンド)と6バンドコンポジット空中写真による土地被覆分類の精度評価と,メッシュサイズの違いによる土地被覆分類図の特性について報告する。
II.研究方法
1.研究対象地域は福岡市博多区の福岡空港南東部付近とした。
2.使用した空中写真は,国土地理院撮影1/8000カラー空中写真(1974年春,1981年冬)である。これらをArcGISのエクステンションのImage Analysisを用いてオルソ空中写真とした。次に,これらの空中写真をArcGISで6バンドのコンポジットバンド化した画像データにした。
3.教師データはその範囲を正方形ポリゴン(10×10m,20m×20m)とするshape fileを用意した。分類項目は宅地,道路(滑走路含む),裸地,草地,広葉樹,針葉樹,竹林,水域の8項目とし,それぞれの項目ごとに教師データを6地点設定した。
4.最尤法による土地被覆分類図の作成は,Image Analysisを使用した。今回は,コンポジット空中写真と,比較のため1974年撮影空中写真を用いて土地被覆分類図を作成した。また,そのメッシュサイズは,1m,5m,10m,15m,20mとした。
III.結果
1.1974年撮影空中写真と6バンドコンポジット空中写真による土地被覆分類図は,両者とも誤分類が多少見られるが,見た目はほぼ変わらず,分類項目の分布に大きな不自然さはない(図1)。これらはすべてのメッシュサイズ及びポリゴンサイズの分類図において認められた。
2.教師データのポリゴンと生成された土地被覆分類図をオーバーレイし,そのポリゴン内がどの分類項目に分類されているか集計した。例えば図1-(1)では,裸地と道路は100%(誤分類率0%)正しく分類されているが,広葉樹と竹で誤分類率が50%を超えた。平均誤分類率は25.5%であった。一方,図1-(2)では竹で誤分類率が40%を超えたが,全体的に誤分類率は低く,平均誤分類率は9.4%であった。よって,6バンドコンポジット空中写真の方が,精度のよい土地被覆分類図を最尤法によって作成することができると考えられる。
3.メッシュサイズを大きくすると,方眼の組み合わせのいわゆるメッシュマップのような土地被覆分類図となってくる(図1-(3))。図2は,図1と同地点における国土交通省の100mメッシュの土地利用細分メッシュ(1976年)であるが,図1-(1)と比較してみると,分類項目の分布はほぼ一致する。空中写真による土地被覆分類は,メッシュサイズの調整により,土地利用図のような用い方ができると考えられ,高分解能な土地被覆分類図でなくとも,研究課題によっては有効な手段であると考えられる。