日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1201
会議情報

産業立地研究からみた都市空間構造と都市地理学
*伊藤 健司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.産業立地研究と都市・(大)都市圏の空間構造
 「21世紀の都市地理学の構築」というシンポジウムテーマを考えるにあたり、産業立地研究、特に小売機能や業務機能の立地に関する研究という視点から検討したい。
 報告者はこれまで主として都市内部スケールあるいは大都市圏スケールで、総合スーパーをはじめとする小売業の立地展開や、製造業や小売業のオフィスの立地に関する研究を行ってきた。企業の事業所立地の分析は、別の側面からみれば産業立地からみた都市・(大)都市圏の空間構造についての検討ともいうことができる。例えば拙稿(2007)では、総合スーパー企業の出店地域について、制度的要因を反映しつつ、都市内部スケールでは駅前・旧市街地・郊外の間で、大都市圏スケールでは、大都市・地方都市・町村部の中で、時代とともに大きく変化してきたことを示した。また、拙稿(2004)では、大都市都心部にあった本社が、企業の合理化・再編過程において他地域に移転することの影響を検討した。
2.緩やかな枠組みとしての都市地理学
 都市という研究対象は、地理学のみではなく、経済学、社会学、工学、そのほか多くの学問分野から研究が行われている。同様に都市地理学にも様々なアプローチがあり経済地理学などと重なる部分も多い。多様な研究アプローチの受け皿としての側面があるというのが現在の状況ではないだろうか。
3.都市地理学におけるテーマ指向の再構成
 現代の日本において都市に関連する研究の社会的要請は大きなものがある。応用的側面が強くなるかもしれないが、報告者が現段階において有効と考えるのは、細分化している都市地理学研究を、個々の研究分野を維持しつつ、同時にまずは都市地理学内部において分野横断的にいくつかの主題に沿って再構成する作業である。これは多様なアプローチによる研究を、改めて都市という視点から議論することである。主題は継続的なものもあれば、ある程度短期において集中的に検討する場合もあるだろう。産業立地研究が関連する内容としては、都市再生の方向性や方法、人口減少や高齢化の進展の中での都市・(大)都市圏のあり方などがある。これらは特定の結論のみを提示することを目的とするわけではない。さらなる検討のための現状把握の段階も必要であり、また方向性の提示においても複数の見方の提示も含めた柔軟な姿勢が適当である。このような作業を進めることにより都市地理学としての担当領域や他の学問分野との連携の必要性がみえてくるのではないだろうか。産業立地研究に関連するところでは、一方では地域経済学をはじめとする経済学分野、もう一方で都市計画学や建築学などの工学分野との連携必要性と都市地理学研究の役割が認識されると考えられる。
文献
伊藤健司 2004.企業統合と小売業本部機能の空間的再編成.荒井良雄・箸本健二編『日本の流通と都市空間』255-273.古今書院.
伊藤健司 2007.市場の多様化と商業立地の多極化.林上編『現代都市の構造的再編』51-80.原書房.

著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top