日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1202
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地区再生ダイナミックスと都市の内部構造
世界のジェントリフィケーションを考える
*藤塚 吉浩
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抄録
 21世紀にはいり、グローバリゼーションの影響を受けた地区再生ダイナミクスが、都市の内部構造を大きく変えつつある。本報告では、地区再生ダイナミクスのひとつであるジェントリフィケーションをとりあげ、世界の都市の変化とその研究動向について考える。
 研究史上最も早くグラスがジェントリフィケーションに言及したのは、1964年のことである。1960年代以降ジェントリフィケーションの活発な時期は3回あり、これらはハックワースとスミス(2001)の段階論において三つの波として示されている。1973年までが第一の波であり、ジェントリフィケーションは西ヨーロッパとアメリカ合衆国北東部の都市に点在してみられる。1970年代後半には、不動産価格の下落を利用して、投資されない地区の大半を開発業者や投資家が購入した。1970年代末から1980年代にかけて第二の波が起こり、世界都市では資本の回帰によってジェントリフィケーションの発現する地区は複数みられるが、世界都市よりも規模の小さい都市においてもみられるようになった。住民の立ち退きが政治的な問題となるのもこの期間の特徴である。1990年代前半は世界的な景気の後退期であり、ジェントリフィケーションはゆるやかになった。1990年代後半以降には第三の波が起こり、ジェントリフィケーションは大規模な資本と結びつき、大規模開発業者は政府の支援を受けて、地区全体に及ぶようになった。新自由主義の政府は、市場におけるジェントリフィケーションの規制者というよりはむしろ斡旋者であり、ジェントリフィケーションは世界の資本と文化の循環に接続して、一般化される状況にある(リーズほか 2008)。
 ジェントリフィケーションが当初の状況と異なり変質してきているのは、都市の内部構造においても確認できる。スミス(1979)は、投資が行われずに衰退したインナーシティの不動産市場へ、資本が回帰してジェントリフィケーションを惹起するという地代格差論を提示した。この地代格差は、都心近くに生じる地価の谷へ資本の回帰を誘発させる。地価の谷は、徐々に都心から投資の行われない地区へと外側に移動する。ニューヨーク市では、都心より離れたこれまでジェントリフィケーションのみられなかった地区において現象が起こっており、地価の高低は投資されないところと、再投資されたところにおいてモザイク状になることをハックワース(2002)は示した。一方、ニューヨーク市のかつてジェントリフィケーションにより再生された地区では、より裕福なジェントリファイアーが来住しており、これをスーパージェントリフィケーションとしてリーズ(2003)は示した。
 ジェントリフィケーションの発現は、ヨーロッパや北アメリカ、オセアニアにとどまらない。1990年代後半には、資本主義に移行した東ヨーロッパ諸国においてもジェントリフィケーションは発現している。リーズほか(2008)は、世界の新聞の見出しを分析した結果、21世紀に入ってジェントリフィケーションを取り上げている件数が増加しており、なかでもワールドニュース、アジアのニュースが増えており、世界的にジェントリフィケーションがニュースとしてとりあげられている。この動向は、アトキンソンとブリッジ(2005)編『世界的文脈におけるジェントリフィケーション』に所収された論文の研究対象都市がイギリス、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、スペイン、イタリア、ギリシャ、チェコ、ポーランド、トルコ、日本、ブラジルにあるという、世界的な研究動向からも明らかである。インナーシティの再投資についての国ごとに正確に比較できるデータは存在しないが、グローバリゼーションにより起こるジェントリフィケーションを比較検証することは重要な研究課題である。
 1990年代にジェントリフィケーションに関する研究成果は拡大したが、その大半は地理学者の貢献によるものである。リーズほか(2008)は、ジェントリフィケーションについてのパースペクティブに関して、理論やイデオロギーは異なるが、方法論は等しく地理学に帰することができるとしている。リーズ(2000)が主張するように、今後はジェントリフィケーションの地理学を構築することが重要となってくるであろう。
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