日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1503
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半島マレーシアの狩猟採集社会における定住の強化に伴う人口と女性のフォレージングの変化
*口蔵 幸雄
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抄録

本発表は,半島マレーシアの狩猟採集民スマッ・ブリ(Semaq Beri)の一集団における政府の定住化政策や開発計画に伴う,居住形態や生業形態の変化が出生数に及ぼした影響について考察する。 また,それらが女性のフォレ-ジングに及ぼす影響についても考察する。
調査集団は,1970年代中ごろまでパハン州中央部を流れるテンベリン川の上流域の支流Sepia川流域を中心に,クランタン州やトレンガヌ州の際上流域で移動生活を送りながら,狩猟採集に加えてマレー村民との間で森林の産物や労働力と農作物や日用品を交換して生活していた。1976年にトレンガヌ州奥地の森林の周縁部に州が公示したオランアスリ保留地内に先住民局(JHEOA)によって建設されたスンガイ・ブルア村に定着した。雨期(11月―1月)を除く季節には,木材運搬用道路を利用して頻繁に奥地に入り,トウ採集その他の目的のキャンプ生活を送った。森林と村の二重生活であり,乾期には,村は定住地というより奥地のキャンプと町(トウ採集の交渉や買い物)の中継所という役割を果たした。
1985年にクンニャーダムが完成し,それまでの主なキャンプ生活での活動域であった主要河川の流域38,000ヘクタールが水没した。この大規模な森林喪失は,保留地に入植して以来最大の環境の変化であった。1990年に,保留地の一部を含む周辺地域の広大な土地が,土地統合再開発公社(FELCRA)によってアブラヤシ・プランテーションとして再開発された。同時期の1990年代に入って,イスラムへの改宗の圧力が強まり,1994年には全員が(名目上)改宗した。その前後から,さまざまな経済開発援助や社会サービスが提供されるようになった。
保留地への入居,クンニャー湖の出現,アブラヤシ・プランテーションの開発という,彼らにとって3大出来事は,とくに女性の定住の強化をもたらした。このことは出生率の上昇に導いた。生殖年齢を過ぎた女性の平均出生数は,保留地入居以前(1979年に調査での推定)において5.00であったのに比べ,ほぼ村に定着した2002年の調査では8.38と上昇した。これに伴い,1979年から,2002年までの23年間の人口の自然増加率(転出者,転入者を除く)は,年平均5.05パーセント,1999年から2002年の3年間の年増加率は10.94パーセントと驚異的に高くなった。社会集団の拡大は,女性の村落周辺域でのフォレージングにおける,グループ構成や収穫物の分配にも影響を与えている。すなわち,特定の親族関係への偏りが強くなった。

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