抄録
1.沿岸域の環境保全と環境再生の課題
高度経済成長期以後、沿岸域の環境は埋立てなどによって破壊されており、近年では、環境を保全し再生するために「里海」や「沿岸域総合管理」などが言われている。「里海」は、「人手を加えることによって」、「豊かで美しい海域を創る」と言われ、環境に関心のある市民などが海を理解して環境再生を行うには有効である。ただ、日本経済調査協議会水産業改革高木委員会の提言で、漁業者の漁業権漁業への企業の「参入のオープン化」を企図したため、「人手」と言うだけでは、沿岸海域が企業の営利優先に利用され、環境破壊が起こることも懸念される。また、「沿岸域総合管理」は、海域と陸域などを総合し、行政的にも縦割りでなく行うとするもので重要であるが、「全国総合開発計画」のように「総合」の名で大規模プロジェクトに偏った開発が行われ、環境を破壊してきただけに、環境保全と再生が大切である。また、「管理」は上からの意味合いが強いため、住民などの参加を十分保障することが求められる。
2.海底ゴミ問題の解決に向けて
瀬戸内海などの海底には多くのゴミが沈積しているが、海底ゴミの回収責任は明確でなく、その多くは回収されていない。これに対し岡山県の旧日生町や尾道市などでは漁業者が海底ゴミ回収に取り組み、回収した海底ゴミを沿岸市町村が処理している。伊勢湾でも愛知県によって、小型底曳網の漁業者による海底ゴミの回収が始められている。
海底ゴミの回収は、海底の環境を熟知し、小型底曳網などの回収手段を有する漁業者が主体とならざるを得ない。しかし、海底ゴミの多くは漁業系のゴミでなく、陸上から流入したゴミなどであるため、沿岸市町村とともに、流入する河川流域圏の市町村や都道府県、それに国が責任をもって海底ゴミの運搬処理などを行うことが必要である。とりわけ、海底ゴミは県境を越えて移動するため国の責任は大きい。しかも海底ゴミは漁業に被害を与えることが多いが、海域環境にも影響を与え、回収すれば資源ともなるため、行政においても水産だけでなく環境や国土関係の省庁部局も責任をもつべきである。また、海底ゴミはプラスチック製品などの石油化学系のゴミが多いため、消費・流通段階でゴミを発生させないこととともに、製造段階でも分解しやすい物の製造やゴミになる物を回収することが求められる。さらに研究者が海底ゴミの実態や回収処理について研究し、問題の状況や解決策などを提起していくことが必要である。
瀬戸内海においては、水島地域環境再生財団の提言を基に、環境省中国四国環境事務所が瀬戸内海沿岸の県や市などが参加した「瀬戸内海海ゴミ対策検討会」を立ち上げ、海底ゴミの実態調査、回収処理、発生抑制について調査検討した。
3.沿岸域の環境保全と再生のあり方
沿岸海域などの沿岸域の環境保全と再生のためには、海に日常的に関わり海の環境を熟知している漁業者などの地域の住民が主体となり、管理責任のある行政、とりわけ沿岸市町村とともに漁業権許可や海岸管理を行う都道府県や国が費用負担も含めて取り組むことが重要である。それに流入する河川流域圏の住民や、環境保護団体、専門家、利用者などが連携していくことが求められる。ただ「平成の大合併」で市町村の区域が広域化し、沿岸市町村でも海をあまり知らない住民も多い。これは沿岸域の環境保全と再生の決定などにとってはデメリットでもあるが、より広範囲に沿岸域を理解する機会でもある。瀬戸内海では、海の環境を守る団体などを組織した「瀬戸内の環境を守る連絡会」などが活動を続けており、伊勢・三河湾では「伊勢・三河湾流域ネットワーク」を結成している。沿岸域は横に長く、河川の影響も大きいため、沿岸域の横の連携や、河川流域圏も含めた全体での総合的な連携が求められる。