日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 305
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雲南省の少数民族地域にみる生業の変化
新平県南碱村を事例に
*張  貴民白坂 蕃池 俊介杜 国慶
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抄録
 中国には55の少数民族がある。雲南省には25の少数民族があり約1,416万人が暮らしている。本報告は雲南省新平彝族傣族自治県(以下新平県という)南碱自然村を事例として、現地調査の結果を中心に少数民族地域の生業の変化とその要因を分析する。
 新平県は省都昆明市の南西部にあり昆明市から176kmのところにある。哀牢山の東麓に位置し、元江(新平県内では戛洒江という)は北北西から南南西へと縦貫している。亜熱帯気候帯に属するが、県内の標高差(最高海抜3,165.9m、最低海抜420m)が3,586mに達して、標高差による気候の差異が顕著である。国土面積は4,223㎢で、人口は27万人(2005年) 。彝族・傣族・漢族・哈尼族など17の民族があり、少数民族は県総人口の70%を占めている。特に花腰傣(傣族の一部)は4.2万人があり、主に元江河谷の漠沙鎮・腰街鎮・戛洒鎮と水塘鎮に集中している 。
 現地調査を実施した南碱自然村は県庁所在地の桂山鎮から306省道で南西へ43kmのところ、元江の河谷に位置している。海抜480m、年間降水量900mm、最高気温42℃、最低気温15℃、年平均気温24℃、乾燥高温な気候である。傣族の自然村で、農家56戸、人口275人。南碱自然村は数百年の歴史があり、純粋な傣族の村である。独特な土掌房に暮らしている。村人は「傣卡」と自称するが、その独特な服装(とくに腰部の装飾)から「花腰傣」と呼ばれている 。
 耕地面積496ムー(水田212ムー、畑284ムー) 。主に水稲・サトウキビ・レイチ・野菜などを栽培している(役場で聞き取り)。1998年の統計によれば、南碱村は食糧の収穫量が182万kg、サトウキビの収穫量が1,020t、農業収入が56万元、1人当たりの収入が2,157元であった(王、2002)。
 農業生産請負制の導入初期、農民の収入を増やすため換金作物であるサトウキビの栽培範囲を山の斜面まで広げたため、植生が破壊され土壌侵食が目立った。また、上流の元江沿いに製糖工場・製紙工場・銅鉱山があるため、水が汚染され、地域開発の負の影響がでてきた。村は2000年から農業構造の調整を乗り出した。サトウキビの栽培面積を減らし、傾斜地では退耕還林を進めた。陸稲とその再生稲、そしてトウモロコシと晩稲との2毛作の導入を促した。また、村は2000年に130ムーの台湾青棗を導入して、翌年に20万元の利益が得られ、1戸当たり3,700元の収入もあった。2001年に150ムーの台湾青棗を新たに栽培し、2,676株のレイチも導入した(王、2002)。
 伝統的な作物から商品作物にシフトすることによって土地生産性と労働生産性を高める。南碱村の自然条件は熱帯果物と冬野菜の栽培に適している。レイチ・台湾青棗・マレー桃・蓮霧などの果物、そして約100ムーの冬野菜が実験的に栽培されている。村近くの広節山の麓に30ムーの池が作られ、魚やカモが養殖され、週末に近くの工場労働者が釣りに来る。
 豊かになりつつある南碱村の景観も街路の整備、伝統的民居である土掌房が新しいデザインの家屋に取って代わって変化している。
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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