抄録
1.はじめに
日本は毎年水害を含む多くの自然災害に見舞われている。これに対して行政は、堤防の建設や河川改修などハード面での防災対策を優先的に進めてきた。しかしながら、近年頻発するゲリラ豪雨がこれまでの想定外の水害を引き起こすことや、税収の減少による防災対策費用の縮小などを見ても、今後の防災対策がハード対策だけでは不十分なことが明らかである。そこで行政は洪水危険個所の事前周知などを目的とした洪水ハザードマップの整備や、災害時の迅速かつ正確な情報提供などソフト面の対策にも力を入れるようになった。
一方、学校教育においても防災教育を盛り込むよう学習指導要領の改訂がおこなわれた。しかしながら、災害をよく知り、その被害に遭わないために何を学んで行くべきかという、教育カリキュラムの整備が未だ不十分である。そこで本研究では、これまでの地理学的知識を活用しながら、主に水害を対象とした中学校地理的分野における防災教育カリキュラムの開発を試みた。
2.防災教育の現状と問題に対する取り組み
現在扱われている教科書の記載では、火山噴火、洪水など毎年日本各地で発生する様々な自然災害を紹介している。しかしながら、これら教材を見ても災害がなぜ起こるのか、身近な地域にどのような自然災害のリスクが存在し、どのように備える必要があるかなど、災害を身近な現象として捉え、体系的に考え学んでいく視点や方法は示されていない。そこで本研究では特に自然災害を身近な地域の問題として捉えるために、地域においてどのような災害が過去に起こり、なぜ発生するのか知ること、又自然災害に対して地域がどのように取り組んできたのか学ぶこと、更に今後どうしていくべきか考えさせることを重視した。作成したカリキュラムはフィールドワークを含めた形で授業実践し、生徒の理解度を考慮し、実際の授業体系に如何に組み込んでいけるか検討した。カリキュラムは、中学校学習指導要領解説(社会編)の「身近な地域の調査」(文部科学省,2008)の授業として実践を行った。
3.防災教育カリキュラムの実践
授業の実践は長野市立広徳中学校で実施した。実践校周辺は犀川の扇状地と千曲川の旧河道、氾濫平野、自然堤防が分布する長野盆地南東部であり、学区域は長野市の洪水ハザードマップが示す浸水想定区域と重なる。また学区に隣接する松代地区では、昭和56、57、58年に水害が発生しており、現在も水害に備えて基礎上げした家屋が見られる。又古くから水屋を備える家や、水神信仰なども存在する地域である。実践した授業構成の概要は以下の通りである。
・水害と地形の関わり
・地形図の読み方
・身近な地域と水害の関わりを知ろう(地形、現在の建物、歴史的遺構の3 つの観点からフィールドワークを行う。)
・過去の水害を学び、今後の水害を考える
・水害の種類を学ぶ(上流・中流・下流の被害の特徴)
詳細は当日発表する。