抄録
I.はじめに
バブル崩壊以降,わが国の大都市圏や地方中枢都市の都心部では地価の下落や,企業の自己所有地の処分が進んだため分譲マンションの供給が活発化した.(香川,2004,2007) 21世紀以降になると,人口規模の小さな都市においても,地価の下落に加え都心居住を推進する行政の補助なども手伝い,市街地中心部での分譲マンションの開発が進んだ(大塚2004).
都心部の分譲マンション供給および居住者に関する研究はこれまで多くの蓄積があるが,それらの対象は大都市圏や地方中枢都市での研究例がほとんどであり,人口規模の小さい地方都市での研究例は少ない.また,これまでマンション居住者に関する研究はその属性や居住意識に関するものがほとんどで,従前住居や居住地移動にまで踏み込んだ研究は少なかった.そこで本稿では新潟市中心部を事例に,近年の分譲マンション供給の特徴を把握すると共に,アンケートを通し都心マンション居住者の特性を前住地や従前住居形態に着目しながら明らかにする.
II.調査概要
本研究では新潟市が策定した「中心市街地」を基に新潟市の「都心部」を独自に設定し,この「都心部」から新潟市を同心円状に,「都心周辺部」「郊外地域」の3地域に区分し,分析を行うことにした.なお本研究では「都心部」と「都心周辺部」を合わせた地域(新潟市中央区)を「中心部」として扱う.
新潟市内に供給された分譲マンションの把握には不動産経済研究所発行の『全国マンション市場動向』各年版を用い,これらの立地分析にはESRI社のArcGISを使用した.
次に,都心部のマンション居住者の特性および転居理由を解明するため,都心部の分譲マンション11棟の居住者に,留置郵送回収によるアンケート調査を行った.アンケート配布総数は918通,回収数は160通(回収率17.4%)であった.なお本研究ではこのうち持ち家世帯145世帯を分析の対象とした.
III.研究結果
(1)分譲マンション供給動向
新潟市における1996年以降の分譲マンションの供給動向を観察すると,1990年代後半は都心周辺部での小~中型物件の供給が主であったが,地価の下落が進行した2000年代以降は都心部への大型物件の集積が高まっている.
また,分譲マンション供給の活発化により,都心部ではそれまで減少傾向にあった人口が微増に転じている.都心部内で人口増が顕著なのはマンション供給が活発な新潟駅周辺や,信濃川沿いの地区であり,一方で駅から離れた木造住宅密集地などでは広範囲で人口が減少している.
(2)世帯類型
新潟市都心部のマンション居住世帯を類型化すると高齢夫婦・単身世帯が全体のおよそ3割を占め,これまでの地方中枢都市および地方都市都心部のマンション研究 (榊原ほか,2003仙台市12%,小林,2008福島市15%)に比べて大幅に高い値であった.
(3)前住地・転居理由
都心マンション居住者の7割以上が新潟市内からの転入者であり,全体の半数は中心部(新潟市中央区)内での近距離移動世帯であった.また,調査世帯の中には長年居住した戸建持家を手放し,都心マンションへ転入している高齢世帯が多くみられた.
現住地への転居理由は,全体では「以前の住居・居住地への不満」が多いが,世帯類型別にみると,ファミリー世帯では,「結婚」や「子の成長」,「転勤・転職」といったライフステージの進展に伴うものが多く,高齢世帯では「世帯主・家族の健康」や 「老後のため」といった回答が多かった.現住地である都心部の魅力に関しては,「買い物の便」や「公共交通の便」への評価が総じて高いが, 高齢世帯に限ると「医療・福祉施設の充実」という回答が多く,世帯類型によって都心マンションへの志向性に若干の差異が生じることが分かった.
IV.まとめ
以上のように,新潟市では,近年都心部での分譲マンション供給が活発化しており,そこには多様な世帯が転入してきている.このことは周辺に農村地域を抱え地方都市的要素が色濃く残る新潟市においても,住居形態としての「一戸建て」にこだわらず,積極的に都心のマンション居住を志向する世帯が多く存在することを示している. 特に,近年は生活利便性を求め、戸建てから都心のマンションへ転入する高齢世帯が顕在化している.このことは,都心のマンションが「住宅すごろく」の新たな終着点として機能しているということが示唆される.