抄録
1.はじめに
近年、森林域における航空機レーザスキャナ(以下、「LIDAR」)の利用研究が著しく進展しており、地盤高や樹高の推定、樹冠抽出、LAI推定などが試みられている。その中で、森林内の階層構造は、生物多様性の評価、施業林の管理状況の評価などに利用できる有用な情報であり、LIDARデータからの抽出については、複数時期のDSM(Digital Surface Model)の差分に基づく方法(以下、「差分法」)、地面に到達する反射点の割合(透過率)に基づく方法(以下、「透過率法」)などが提唱されている。
本報告では、複数時期に取得されたLIDARデータを使用し、差分法を適用して国内の異なった地域における樹林の階層構造把握を行い、以下の対象地域で三次元植生図を作成した事例を報告する。
2.東京近郊での事例
八王子市にある(独)森林総合研究所多摩森林科学園内の、樹種や管理状態の異なる3地区の落葉広葉樹林を対象として階層構造把握を行い、類型区分を試みた(今井ほか、2005)。LIDARデータは活葉期1時期(10月)、落葉期2時期(2月、12月)の計3時期を用いた。落葉樹は落葉の時期が樹種によって異なるため、2時期のデータを用いた。
その結果、落葉前~落葉後にかけてのDSMの変化量から落葉広葉樹林内の階層構造が把握でき、類型区分も可能であること、混交林では複数時期のLIDARデータが常緑樹・落葉樹区分に有効であることがわかった。
3.知床半島での事例
羅臼岳の南東麓で、トドマツ・ミズナラからハイマツ帯へ植生が変化する範囲を対象に、LIDARデータで三次元植生図を作成した(小荒井ほか、2009)。2時期(活葉期・落葉期)のLIDARデータに対して、小荒井ほか(2007)の植生区分アルゴリズムを参照して、対象地域に整合する閾値を設定した。用いたパラメータは植生高、活葉期と落葉期の植生高の差、樹冠厚であり、最終的に、高木・中木・低木、落葉・常緑、落葉樹の単層・複層、樹冠厚の薄・厚を組合せた11区分の植生図が得られた。
4.中国山地での事例
鳥取県日南地区の中国山地を対象とし、東西1.25km、南北1.6kmの範囲で、2時期のLIDARデータとデジタル航空写真画像を用いて三次元植生図を作成した。対象範囲は落葉広葉樹林が主であり、砂鉄採集のためにマサ土を崩した鉄穴(かんな)流し跡地にオニグルミが繁茂する。
植生区分のアルゴリズムは知床半島羅臼岳で用いたものを基本としたが、落葉期に着葉したままの落葉樹があったことから、常緑樹はデジタルオルソフォトの判読によって区分した。この地域に特徴的なオニグルミの抽出に着目し、早期落葉樹で樹冠厚が薄いものをオニグルミとして区分した。また、LIDARのランダム点群のヒストグラム解析によって、単層林と複層林を区分した。
5.おわりに
多時期のLIDARデータを用いて森林の階層構造を解析し、三次元植生図を作成した。現地調査による検証において、いずれの事例も現況に整合していることがわかった。
参考文献:
小荒井衛ほか(2009)航空レーザ計測による羅臼岳の景観生態学的研究, 地理情報システム学会講演論文集、Vol.18、 51-56。
小荒井衛ほか(2007)都市緑地の熱緩和効果判定のための植生三次元を考慮したレーザ植生図の提案、日本写真測量学会平成19年度年次学術講演会発表論文集、39-42。
今井靖晃ほか(2005)複数時期のLIDARデータによる落葉広葉樹林内の階層構造把握の試み、日本写真測量学会平成17年度秋季学術講演会要旨集、25-28。