日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 214
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関東平野内陸域における夏季高温現象の実態調査と形成メカニズムの解明
*高根 雄也日下 博幸
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抄録

1.はじめに
 近年,関東地方において,夏季の日中,日最高気温(Tmax)の極値を更新するような極端な高温日がしばしば発生している.例えば,2007年8月16日には,埼玉県熊谷市でTmaxの極値を更新した.この例のように,Tmaxの極値を更新するまでには至らないものの,これに類似する高温日はしばしば発生しており,これによる社会的損失が懸念されている.学術的に見ても,夏季の著しい高温の形成メカニズムは,未知な部分が多く残されており,その解明が望まれている.
 これまでに蓄積されてきた多くの先行研究によって, 極端な高温日の特徴が指摘されてきているが,これらの特徴を統計的に指摘した研究は少ない.また,数値実験による定量的な解析はほとんど行われていない.したがって,極端な高温日に共通する普遍的・支配的要因は明らかになっていない.本研究では,これらの課題を解決することを目的とする.

2.使用データ・使用モデル
 使用データ:気象庁天気図,高層気象観測資料,地上気象観測資料,地域気象観測資料 使用モデル:WRF-ARW ver. 3.0.1.1

3.極端な高温日・高温日の定義
 本研究では,Tmaxの11年平均値からの標準偏差(σ;4.3)をもとに,極端な高温日・高温日を以下のように定義する.  極端な高温日≧(Tmax平均+1.5σ)  極端な高温日>高温日≧(Tmax平均+1.0σ)  極端な高温日・高温日に当てはまらない事例は,非極端な高温日・非高温日とする.結果,極端な高温日は16事例,高温日は92事例,非極端な高温日・非高温日は574事例となる.

4.統計解析の結果と考察
 熊谷の高温日・極端な高温日の気圧配置型の出現確率をそれぞれ調べた結果,高温日では南高北低型(夏型)+東高西低型の出現確率が高く(約45%),鯨の尾型(盛夏型)は低い(約15%)のに対して,極端な高温日では,鯨の尾型の出現確率が最も高くなる(約70%)ことが分かった.南高北低型・東高西低型の場合,上空の風向は南西よりになるのに対して,鯨の尾型の場合,北西よりとなり,気圧配置型と上空の風は概ね一致していた.また,極端な高温日の上空の気温は平均値に比べて高くなっており,南高北低型・東高西低型に比べて鯨の尾型のときに高くなる傾向が認められた.館野の0900(JST)の大気安定度を求めた結果,極端な高温日の安定度は,平均値に比べて弱くなっていることが分かった.以上より,極端な高温日は,上空の風が北西よりで上空の気温も高く,対流混合層が高い高度まで発達しやすい環境場にある.
 熊谷の極端な高温日・高温日の地上気温の時間変化を調べた結果,位相は一致しているが,日最低気温(Tmin)とTmaxの絶対値に大きな差異が認められた.極端な高温日と高温日ではTminは約1.5℃異なり,Tmaxは約2℃異なる.すなわち,極端な高温日は早朝から高温傾向にあり,早朝からの昇温量も大きい.極端な高温日の地上風向を調べると,早朝は全ての事例で西風成分の風が吹いていることが分かった(図1上).日中になると,西風成分(北西より)の風が持続する日と,南~東の風に変化する日とに大別される(図1下).日中の卓越風向が北西よりの日は,南~東の日に比べて,山越え気流による昇温が考えられ,Tmaxが大きくなると推測されるが,統計解析の結果,この影響は有意ではないことが分かった(図1).しかし,個々の事例によって,結果は異なるため,事例解析を行い,その影響を定量的に評価することが重要である.

5.事例解析の結果と考察
 極端な高温日の日中における地上風向の違い(北西よりか南~東か)に着目し,極端な高温日の典型事例を例に,地上の昇温過程をWRFモデルで定量的に調査した.北西よりの風が卓越した事例として,2004年7月21日と2007年8月16日を,南~東の風が卓越した事例として,2002年7月31日を選択した.結果と考察については紙面の都合上,発表当日に紹介する.

謝辞
 本研究は,環境省の地球環境研究推進費(S-5-3)の支援により実施された.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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