日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 301
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房総半島における屋敷林の示す卓越風と屋敷林内に出現する暖温帯常緑広葉樹林構成種
*高瀬 伸悟
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抄録

I 目的
 房総半島には、防風を目的とした屋敷林と生垣が分布する。これらの屋敷囲いを指標とし、当地域の卓越風の詳細な分布を明らかにできると考えた。また、屋敷囲いを構成する樹種には地域差がある。この差は樹木の生育環境の違いであり、構成樹種の調査から、屋敷囲いを構成する樹種の分布とそれを決める要因を明らかにできると考えた。以上のことから、房総半島における防風のための屋敷囲いを指標とし、卓越風の方位および強度を明らかにすることと、屋敷林を構成する樹種とその分布限界を明らかにすることを研究目的とした。

II 調査対象地域の選定
 調査対象地域は、木更津・富津・久留里・旭・茂原・岩井・鴨川・館山・和田の9地域である。調査は高さ3m以上ある屋敷囲いを対象に、方位・厚さ・長さを測定した。また、屋敷囲いに用いられる樹木の毎木の胸高直径および樹高を測定した。屋敷囲いから卓越風の強度を推定する為に、屋敷囲いを指数化し防風の強度を示した(防風の指数)。また、胸高直径から胸高断面積を求め、屋敷囲いの構成樹種の胸高断面積による相対優占度を算出した。

III 調査結果
屋敷林および生垣の示す卓越風
1)房総半島に分布する屋敷林および生垣の配置方位より、房総半島には北寄りと西寄りの2つの風系があることがわかった。これらの方位に対する屋敷囲いは、冬期(12-2月)の季節風を防ぐための囲いである。
2)北寄りに対して防風の指数の値が大きい屋敷囲いを設けている地域は、房総半島北部の旭・茂原・久留里・木更津・富津である。一方、房総南部の岩井以南では、北寄りに対する屋敷囲いは防風の指数が小さいかもしくは見られない。しかし、南部においても館山と鴨川では、平野中央部で北方位に対する屋敷囲いが分布する。この2地域は平野の幅が広いため丘陵の上部を吹き越した高度の高い風が、平野中央部に吹き下ろしていると考えられる。
3)西寄りに対する屋敷囲いの防風の指数が大きい地点は、調査をおこなった全ての地域に分布する。聞き取り調査では、この西寄りの強風は、北部地域では寒冷を伴う強風との聞き取り結果であったが、房総半島南部の岩井・館山・和田ではそれ程に低温を伴わない湿潤な強風との結果であり、違いがみられた。
屋敷林および生垣の構成樹種
1)屋敷林および生け垣には人為的に植樹された樹種が優占する。人為的に植樹された主な樹種はイヌマキ・マテバシイである。マテバシイの優占する屋敷囲いは内房総北部の木更津・富津であり、イヌマキの囲いは木更津・富津を除く調査地域全てに分布する。
2)房総半島に分布する屋敷林および生垣の構成樹種は、人工的に植樹された樹木だけではなく、潜在植生の極相種とされるタブノキ・スダジイ・シラカシ・アラカシが混在する。タブノキ・スダジイは調査をおこなった全ての地域に分布する。一方、シラカシおよびアラカシは、茂原・久留里・鴨川の3地域に出現する。
3)シラカシおよびアラカシの出現する地域では、同一地域内においても分布に差がある。鴨川ではシラカシが沿岸より7.9km、アラカシが沿岸より11.5km内陸に出現した。また、茂原では沿岸より5.0km以上内陸の地点においてシラカシが出現した。これらの樹種の分布の差は、各樹種の耐塩性の差だと考えられる。

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