日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 302
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外秩父山地におけるカバノキ林の立地環境と維持機構
*小川 滋之
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抄録
はじめに:
 東日本太平洋側の落葉広葉樹林では,ミズナラ林やコナラ林などが中心となり,この中にはカバノキ属樹木が多く混生する.しかし,カバノキ属樹木に対しては二次林要素とのみかたが一般的であったため,林分が形成される立地環境や維持機構の研究報告は少ない.そこで,太平洋側で多くみられるヤエガワカンバ,シラカンバ,ミズメの林分を対象に,これらの要因を検討した.対象としたカバノキ林の立地環境については,地表撹乱による林冠ギャップの形成が関わることが既存研究から推察された.そのため本研究は,地表撹乱による林冠ギャップの形成に着目し,カバノキ林が形成される立地環境や維持機構について検討した.

調査地と方法:
 調査地域は,カバノキ林が多く分布する埼玉県の外秩父山地を選定した.ここは,変成岩類が基盤岩となり,風化すると粘土化する鉱物を多く含む基盤岩の性質から,地すべり地形が多い地域である.調査は,はじめに全体的な植生分布を明らかにするため,調査地域において植生分布の調査をおこなった.さらに,カバノキ林の立地環境と維持機構を明らかにするため,カバノキ林と主要植生となるコナラ林において表層土壌と斜面傾斜,毎木調査をおこなった.

結果:
 カバノキ林は,コナラ林内などにパッチ状に分布していた.カバノキ林は,コナラ林より斜面傾斜がある区域に多く,礫の混入や腐植層と粘土層が互層になる区域に分布していた.地表撹乱に由来する土砂礫が堆積する区域と一致していた.いっぽう,コナラ林は緩斜面区域に広く分布しており,厚く腐植層が堆積していた.地表撹乱がない安定した土壌環境に分布していた.カバノキ林とコナラ林の林分を比較する.カバノキ林は出現種数が多く,林分は上層から下層まで幅広く個体の分布がみられた.コナラ林は出現種数が少なく,コナラが80.0%以上の優占度になっていた.林分は,上層にのみに偏る個体分布がみられた.どちらの林分でも樹高6m未満では,出現する個体はなかった.

考察:
 カバノキ林の形成には地表撹乱が関与している.地表撹乱により根返りが起こり,適当な大きさの林冠ギャップが形成されると,カバノキ属樹木が侵入すると考えられる.地表撹乱の無い立地環境では,林冠ギャップは形成されにくいため,カバノキ属樹木の侵入は難しい.そして,林冠ギャップ内では様々な樹種が侵入するが,カバノキ属樹木は生長が早く個体サイズが大きいため優占できる.カバノキ林の維持機構を検討した結果,現状の林分は後継樹がないため,一代限りで消滅すると考えられた.しかし,基盤岩である変成岩類の性質から断続的に地表撹乱があり,林冠ギャップは形成され続ける.その林冠ギャップの出現に乗じて,新たにカバノキ属樹木が侵入することにより林分が形成される.したがって,調査地域周辺からカバノキ林が消滅することはなく,将来にわたり生育地を変えながら維持されると考えられる.
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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