抄録
高度経済発展に伴い新興国の中華人民共和国では,北京,上海,広州などの大都市圏が形成された。国内の経済後発地域から経済発展地域への人口流入と共に,大都市中心市街地の再開発も急激に進行している。上海市,北京市をはじめ,中国の各大都市では,老朽化した住宅を取り壊し,その跡地に高層ビルを建設する。それに伴い,市街地の地価が高騰し,都市中心区を追い出された住民が郊外の住宅へ移転することは,1990年代から始まり,現在に至るまで20年間継続している。<BR>
上海市の場合は,1990年代から土地使用権の譲渡により,近代的な都市化整備が行われる前に急速に都市化が進み,過剰都市化の現象が現れた。郊外では,高級別荘と都市中心区の再開発で家を失った住民の移転先となる一般マンションが建ち並んでおり,農業用地が「住宅地基地」になっている。一方,都市中心区では,再開発後の高層ビルと伝統的な里弄(リロン)住宅が混在し,都市部の貧富の格差が拡大している。本発表は上海市の静安区にある大中里を研究対象として,上海市の中心市街地で行われた里弄住宅の再開発事業と,それによる都市内人口の居住者移動の実態を明らかにすることを試みる。<BR>
研究対象地域である静安区大中里地域は,上海市中心部にある大型の里弄住宅団地である。1925年に建設され,2009年の第2期立退き計画が完成するまで,84年間の歴史を持っていた。開発業者の目標は,大中里地域の地理的な特性を利用し,開発業者自身の開発経験で上海市と静安区の新しいランドマークにしようとしている。今回の大中里再開発事業は,「陽光計画」(サンシャインプロジェクト,公開,公正を意味する)と標榜され,一部のデータが公開されている。本発表では,公開されたデータを用いて,居住者移動状況を分析する。開発業者は, 再開発計画地域に居住している住民に対し,取り壊しとなる住宅の補償安置価格を確定し,現金補償と住宅補償を二分類し,五つの補償方法を提示した。その中で,住宅形式補償は,上海市内の住宅団地の住宅を当てることで行われた。住宅形式補償を選んだ居住者の状況及び移転先として提供された住宅団地の住宅と,その選択率をGISで地図化し,居住者移動の実態を明らかにする。