抄録
福島第一原発群の一連の事故は大量の放射性物質が環境中に放出されるというあってはならない災害をもたらした。この様な事態に際して各機関で空間線量率のモニタリングが進められているが、多くは幹線道路沿いである。しかし、アスファルト上の放射能の減衰特性や森林への沈着などのため(IAEA、2006)、幹線道路以外で高い空間線量率が観測される可能性がある。そこで、GPSと連動した車載型空間線量率測定システムにより幹線以外を含む範囲の移動観測を行ない、従来得られていない空間線量率分布のモニターを試みた。最初の測定は7月1日~4日にかけて行った。
空間線量率測定にはGEORADIS社製携帯型放射線量・成分測定装置ガンマー線スペクトロメータRT-30を用いた。GPSから位置情報を取得し、車で走行しながら連続的に空間線量率を計測できる。移動観測ではRT-30を車の後部座席に据えて車内で計測を行うが、車外の1m高の値を複数箇所で測定し、変換係数を求めた。
計測結果はGoogleEarthのkmzファイルに変換し、三次元表示機能を活用して空間分布の解釈を行った。その結果明らかとなった重要な事項、仮説を以下に示す。
●太平洋流域と阿武隈川流域の地形分水界では南東側(第一原発方向)の空間線量率が高い。
●峠を境に空間線量率が大きく変化する。
●幹線道路沿いよりも、そこから入った山間部の方が空間線量率が高い傾向が見える。
●林道では非舗装区間で空間線量率が高いように見える(例えば伊達市小国地区)。
これらの地域特性はIAEA(2006)で説明可能な事項も多いが、その詳細な解釈は次の課題としたい。
放射能汚染に対する対策は全汚染域一律というよりも、地域ごとの自然地理学的、人文社会的特性に応じた対策が望ましい。今後も地域ごとの詳細なマッピングを進めるとともに、放射性物質のフォールアウトの状況、土地被覆ごとの沈着の状況に関する調査を進めていく予定である。今後の調査結果は順次以下のURLに掲載予定である。
URL: http://dbx.cr.chiba-u.jp/GDES/20110311/