日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 510
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香川県東かがわ地域の手袋産業の地場と海外拠点群の戦略的協働関係
*平 篤志
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抄録
本発表は,香川県東かがわ地域を中心に展開する手袋産業を事例として,地方地場産業企業群のグローカル展開の質的変容の特徴を明らかにする.東かがわ地域には,120社ほどの手袋関連企業が集積している.当地域における手袋生産は,1世紀を越える伝統をもつ.今なお国内シェアの90%(生産額)を占め,県が全国に誇る地場産業の1つである.当産業は国内市場に製品を供給するのみならず,海外への輸出用にも生産を行って,日本有数の生産基地として発展してきたが,1970年代以降国際競争の激化によって輸出市場が縮小し,内需へより重心をおく戦略展開が行われる一方,円高期以前の1970年代から積極的に海外展開を行ってきた.当初は,近隣の韓国,台湾に進出を始めたが,その後生産コストの上昇に伴い,中国が生産場所の中心となった.現在,グローバルネットワークの拡大と生産コストのさらなる低減を目指し,中国内陸部やベトナム,インドなどが進出地域に加わりつつある.一方,地場の東かがわ地域は,本社機能と製品の企画開発機能,一部高級品の生産機能,生産と流通の調整機能を維持し,手袋の街としての地域ブランドを保っているが,職人の高齢化もあり,専門労働力の育成が喫緊の課題となっている.また,発注元企業の下請的地位を脱するため,自社ブランドの育成も重要である.現在,組合を中心にしたエキスパート養成プロジェクト,地元商店街でのアウトレットショップの開店,また個別企業による大都市での専門小売店の設置といったあらなた試みが行われている.要するに,東かがわ地域の手袋産業は,今「地場」の意味と海外展開のありようの再考を求められているといえる.地場では高度な企画生産機能を維持し,海外展開では本社と海外拠点間での新たな連携構築が肝要である.その特徴は,「柔軟な戦略的協働関係」として捉えることができる.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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