日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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厳島管絃祭の期日に関する陰陽五行思想からの考察
*曽我 とも子
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抄録

厳島神社は広島県廿日市市宮島町の海上に造営された珍しい神社である。厳島神社には、厳島の中心となる神の山と崇められてきた弥山を源流とする御手洗川と白糸川の両河川が流れ込んでいる。厳島神社本殿の裏の森である後苑は、祭神が紅葉谷(御手洗川)を通路とし、弥山から本殿へ出現するという信仰に裏付けられ、神聖な場所として人の出入りを禁じ、不明門は神の通る門であって絶対に開いてはならないとされている。
厳島神社において、最も盛大な祭りのひとつが、旧暦6月17日の夕刻から深夜にかけて船上にて管絃を奏する管絃祭である。この日の日没後、北斗七星は厳島神社本殿の前方(西北)に、南斗六星は社殿後方(南東)にくる。西北は八卦の乾(☰)にあたり乾は陽の気の集まった最も純粋な「陽」である。ゆえに西北は万物を生み出す光の元でもあるを象徴する方角とされる。さらに旧暦6月は、北斗七星の柄(剣先)は十二支の未を指している。未とは万物が実り豊かに滋味をもたらすさまをいい、易(後天八卦)では坤(☷)であり、坤は純陰でを表す。この日、弥山の祖神は紅葉谷を通り不明門から厳島神社本殿へと入る。では、その時に管絃を伴うのはなぜか。
厳島の管絃は、雅楽と呼ばれる伝統的な古典音楽で、舞を伴わない合奏である。『史記』「楽書」には、楽の和は天地間の和の気を受けたものであり、和を合する作用があるため万物が生まれ、節序があるため四季における陰陽の気が1年12ヶ月の順序を決める。楽は天の道理によって作られ、陰と陽の和合は、五行を順当におこない季節をなめらかにすることで五穀豊穣となすとしている。
管絃祭のすべての神事の終る23時頃には、社殿背後(南東)から十七夜月が顔を見せる。満月に合わせた管絃祭が十五夜(15日)でなく十七夜(17日)としたのは、北斗七星にちなんだものと思われる。北斗七星は、農耕の基準である季節を指し示し、海上生活の方角見にとっても重要視されていた。
旧暦6月17日の夜は、山の神(陽)と水の神(陰)が出合い、天(陽)と地(陰)が楽(管絃)によって和合する日であり、厳島管絃祭は、五穀豊穣と航海安全を願う祭りと考える。

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