日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1405
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東京大学における野外活動安全管理と事故防止
*茅根 創
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抄録

野外活動(フィールドワーク)は,室内実験とは異なる様々な危険を伴い,時には重大な事故が発生する.しかしながら大学においては,これまで,野外活動における事故は本人の自己責任という認識があったことは否めない.研究は個人の興味に基づいてやるものという考えからそうした認識が生まれ,大学という研究者個人の自立的な責任を尊重する価値観の中で,組織としての責任は忘れられがちであった.しかしながら,大学における研究も研究指導者のもとで行われる以上,安全管理や事故防止も個人の責任に帰すことはできない.法人化以降,社会にとっては当然であった組織としての責任が,法的にも問われるようになった.
そうした中で東京大学では, 2005年7月に潜水調査中のリサーチフェローが溺死するという不幸な事故が発生した.この事故を受けて,事故の原因解明を徹底的に進めるとともに,事故防止と安全管理の体制を作るため,学内の野外活動に従事する教職員が半年にわたる議論と作業を行い,「東京大学の野外における研究教育活動に関する安全衛生規程」を策定し,冊子「野外活動における安全衛生管理・事故防止指針」をとりまとめた. 「規程」は,部局長が野外活動の安全確保に責任を負うことと,野外活動に参加する者は,規程や指針,責任者の指示を守り安全を遵守する義務を負うことを明記した.確認のために,野外衛星管理計画を策定し,調査の前に届け出ることを定めた.「指針」は,規程に従ってその内容をわかりやすく説明するとともに,より具体的に準備と現地における注意事項,事故発生時の対応,危険・有害な動植物への対応,救急処置と野外で必要な医学的知識を,100ページほどの小冊子にまとめたもので,野外活動を行うすべての教職員に配付されている.
この事故では,潜水調査について法的資格をとらせていなかったことから,大学が労働安全衛生法違反で送検された.さらに指導教員の責任を問うて,遺族の告発も行われた.法人化と社会的認識の変化によって,大学や指導教員の責任が法的にも問われることが明白になった. 学生の野外活動が労働安全衛生法の枠にかかるかは不明である.しかし,指導者のもとで野外活動を行う以上,教職員に準ずる安全管理を行うべきである.さらに,これまで積極的には外部に公表されなかった事故の情報を,事故防止のために共有すべきである.

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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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