抄録
本研究では、1995年、2000年、2005年の日本における外国人女性の合計出生率を推定し、欧州諸国との比較によって日本の特徴を明らかにするとともに、都道府県別の外国人女性の出生率の地域差についても検討する。 1980年代後半以降、日本では外国人が増加している。外国人の増加には、かれらの家族形成行動を通じて日本の人口に影響を及ぼすという面がある。しかしながら、人口動態統計では母の年齢別・国籍別の出生数が表章されていないため、日本では外国人女性の出生率の検討はほとんど行われてこなかった。本研究では,既存の統計からTFRを推定するための手法を利用することで、日本の外国人女性の出生率について検討する。その際、統計によって外国人人口の規模が異なることを考慮し,国勢調査の外国人人口を利用した場合(以下、ケース1)、および在留外国人統計の外国人人口を利用した場合(以下、ケース2)のそれぞれについてTFRを推定することとした。主な結果は以下の通りである。 ?@日本では、欧州諸国に比べ、外国人女性の出生数が出生数全体に占める割合は低い。 ?A日本における外国人女性のTFRは、1995年、2000年、2005年の順に、ケース1で1.53、1.39、1.13、ケース2では1.26、1.01、0.82であった。ケース1とケース2で約0.3ポイントの差がある。 ?B同期間の日本人女性のTFRは1.40、1.35、1.26であり、欧州諸国でみられるような外国人女性のTFRの方が高く、おおむね2.00を超えるというような状況にはない。ただし、国籍別にみれば、日本の外国人女性でも高いTFRを示す場合がある。 ?C国全体のTFRに対する外国人女性のTFRの影響が小さい点は日本も欧州諸国と類似するが、国全体のTFRを上昇させるよりもむしろ低下させる効果がみられる点が日本の特徴である。 ?D国勢調査の15-49歳女性の有配偶割合とケース1のTFRとの関連を検討したところ、有配偶の外国人女性の平均出生数が有配偶の日本人女性より少ないことを示唆する結果となった。 ?E外国人女性のTFRの地理的パターンは、1995年の東北地方で高いパターンから2005年の関東地方や東海地方で高いパターンへ変化し、ほとんどの都道府県で日本人女性のTFRを下回るようになった。