日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P712
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歴史的町並みにおける夜間景観形成の可能性と課題—埼玉県川越市「川越一番街」を事例として—
*御園 理紗
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抄録

1.研究の背景と目的
1975年に伝統的建造物群保存地区制度が制定されて以来、多くの歴史的町並みでは建築物の修理修景や道路の石畳化などが実施され主に日中の景観に焦点を当てた整備事業が行われてきた。しかし、近年になると一部の地域では夜間の観光地化政策や街路灯の老朽化による街路灯整備事業が行われており、徐々に夜間景観にも焦点が当てられるようになっている。そこで、本研究では川越一番街を事例に歴史的町並みにおける常時とライトアップイベント開催時の各々について夜間景観形成の実態を調査し、その問題点や今後の課題、また事業の実施よってもたらされ得る効果について分析を行うことを目的としている。
2.町並みの夜間景観形成の現状と課題
2007年、街路灯整備事業により新設された街路灯は安全面だけでなく町並みの景観に配慮した構造やデザイン、光色などの工夫がなされている。観光客を対象に行ったアンケート調査で町並みの夜間景観に対する評価が上がったことから、街路灯は夜間景観を形成する重要な一要素であるということが明らかになった。また、個々の建築物ごとの照明方法について現地調査の結果からは、店舗の業種や建築物の種類によって異なった傾向が見られこれらは商店間で夜間景観に対する意識の差が要因として考えられる。
3.ライトアップイベントの開催とその効果
1982年より伝統行事の一つとして、毎年7月下旬の土日2日間で「川越百万灯夏まつり」が開催されている。町並みのライトアップには提灯を主に用い、イベント開催時は多くの店舗で営業時間を延長しているため個々の建築物の照明による効果も合わさり統一感のある夜間景観が形成されている。
4.結論
川越一番街では街路灯整備事業の実施により町並みの夜間景観の質は向上したものの、常時においては個々の建築物による夜間照明の取り組みに差が見られ町並み全体の魅力的な夜間景観は形成されていないが、ライトアップイベント開催時は商店街全体で取り組みが行われ統一感のある夜間景観が創出されている。この違いは夜間景観に対する合意形成がなされているか否かによるものであると考えられ、今後常時において夜間景観の魅力を高めていくためには合意形成が重要であるが地域住民の住環境への影響や照明器具の設置費や電気代などの経費の問題などが存在し、短期間で行われるイベントと比較して合意を成すことは難しい課題である。

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