抄録
世界遺産やジオパーク、ユネスコエコパーク(MAB)、ラムサール、エコミュージアムなど、建物屋内ではなく屋外のフィールドにおいて研究者や地域住民らが現地を解説する試みがわが国においても年々増え、内容も多様化している(本発表ではこれらを総称してフィールドミュージアムと呼ぶ)。九州地方においてもその傾向は顕著で、例えば阿蘇地域では現在世界文化遺産も世界ジオパークもエコミュージアムも同時に整備が進められるほどの活発ぶりである。各々の推進室や協議会においては如何に登録せしめるかが問題とされがちだが、もちろん議論の本質はそこではなく、登録後如何に地域資源を運用せしめるかにある。本発表ではまずこうした全体的な動きと問題点を九州地方の事例からみていく。またこれらの動きはわが国においてまだ新しいものであるため、各地域では試行錯誤の途上であるが、ここに来て地理学者にとって思わぬ幸運もみえてきた。それは地理学学芸員誕生の可能性である。学問と市民をつなぐ接点である博物館においては、従来学芸員の役割は縦割り的なものであったため、学問横断的な地理学者の採用は求められてこなかった。しかしフィールドミュージアムにおいては現場で諸要素が関連して展示されるため、個々の専門分野を取りまとめる総括的な地理学学芸員の存在が求められる。地理学会はこうした時機を逃さず、フィールドミュージアムにおける地理学者の採用や、大学での博物館学芸員課程における地理学の意義など積極的に主張すべきと思われる。同時に生命倫理など、もし地理学者が学芸員となったとき逆に学ばねばならない不慣れな事項も少なくない。それらもあわせて本発表で検討したい。