日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 505
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市町村合併に伴う広域連携の再編とその課題
埼玉県秩父地域を事例として
*久井 情在
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抄録
「平成の大合併」により,日本の市町村区域は大きく変わった.合併推進の理由として政府は,既存の市町村区域では対応しきれない広域的な行政が必要になったことを挙げている.広域的行政課題への対応は,これまで協議会や一部事務組合等の広域連携によってなされてきたが,自市町村優先意識や連携機構の権限の弱さなどの限界が指摘されていた. しかし,実際の市町村合併は財政問題が直接的な動機となったものが多く,必ずしも広域行政への対応を目指して行われたわけではなかった.広域連携の管轄区域と一致する市町村合併が行われたケースはそれほど多くなく,大半は,広域連携より小さな範囲で市町村合併がなされ,合併後も連携機構が存在し続けている.このような地域では,合併で市町村の構成が変わることにより,広域連携が再編を余儀なくされ,その過程で様々な問題が出現している. 本研究では,市町村合併に伴う広域連携再編の意義を明らかにするために,埼玉県の秩父広域市町村圏組合を取り上げ,組合と市町村合併との関係から争点になっている事柄を検討した.秩父圏域では,はじめ全市町村の合併が模索されていたものの,次第にいつくかの町村が離脱するようになり,結局旧秩父市を中心とする合併で成立した秩父市と他4町とに統合されることになった.このような市町村合併に伴う広域連携の再編の中で争点となったのが,組合規約の変更と,火葬場建設をめぐる問題であった.組合規約の変更問題では,組合執行部の変更案に対し,町村側が,秩父市に過度に有利な内容であるとして反対した.次に,火葬場建設問題であるが,秩父市が火葬場の建設・運営を,組合事業から市の単独事業に移行しようと提案したことに端を発する.これも町村側の賛同を得ることはできず,実現されなかった. これらの事例は,合併を機に圏域内でより強い権限を手に入れようとする秩父市と,権限の維持を図る4町村との利害衝突と捉えることができる.もともと圏域全体での合併を計画していた秩父市にとって,広域行政への権限が組合に残ることは当初の構想から見たとき権限の後退と映る.逆に現状維持を図る町村側にとっては,組合の権限を秩父市に移すことが自立性の後退となる.このような,市町村合併後も広域連携が存続することで合併広域市町と小規模町村との間で利害が衝突するという事態は,秩父圏域だけでなく,他地域でも生じていると考えられる.
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