日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 418
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ヨルダン・ヴァレーにおける死海トランスフォーム断層の最近の活動
*東郷 正美長谷川 均Tawfiq Al-YazjeenMahmoud Al-Qaryouti石山 達也岡田 真介竹内 えり牛木 久雄今泉 俊文
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抄録
ヨルダン・ヴァレー断層帯(JVF)は、アラビア・プレートの西縁を限る死海トランスフォーム断層(DST)に沿って発達する活断層帯の一部で、その中部という意味ある位置を占めて存するにもかかわらず、これまで詳しい活断層調査の対象になることもなく今日に至っていた。発表者らは、JVFがほぼすべて、最終氷期の多雨湖として知られるリサン湖の発達地域内に位置することに注目し、むしろ最近2~3万年以内の活動性およびその場所的違いが定量的に把握できるまたとない好条件下にあるとの認識をもって、2008年度からヨルダン領内において変動地形学的調査研究を進めてきた。これまでに、全域を対象とした空中写真判読調査、主要変位地形についての現地調査を終え、2010年度からは活動履歴調査の段階に入っている。調査研究は今なお継続中であるが、これまでに以下のような成果を得られたので報告する。 1)  JVFは、死海の南~西岸からほぼ南北走向の直線状をなして北上し、ティベリアス湖の東岸に至っている。その総延長は200kmを超える。2)  JVFは、リサン層堆積面やヨルダン川支流がそれを覆うように形成した扇状地面、それらを開析して形成された極新期の河成面群に変位を与え、低断層崖や大小のバルジ・サグポンドなどの変位地形をつくっているが、その比高については、もっとも大きいもので30~40m程度、ただし、それは例外的で多くは10mに満たない。3)  JVFを横切る大小の河谷はほぼいずれも、左ずれの屈曲・食い違いをなす。リサン層堆積面の開析谷の中で、Wadi Al-Arab、 Wadi Al-Ziglab、Wadi Al-Russiefのような大きな河谷の左ずれ屈曲量は、150~160mに達している。以上から、JVFは、左横ずれ変位を主としており、変位に上下成分をほとんど伴わない断層と見なせる。リサン湖の湖面が最高位に達したのは2.5万年前頃とされている(Bartov et al.,2002)ことを念頭に置くと、JVFの最近の平均変位速度は、6m/1000年を上回っている可能性が考えられる。4)  JVFの活動履歴資料を得るために、まず、北部のShaikh Husain地区でトレンチ調査を試みた。トレンチ掘削地は、リサン層堆積面を開析するWadi Abu-Ziadが形成した若い扇状地面上に位置しており、ここに掘削した2つのトレンチの壁面には、リサン層の一部と思われる均質な砂・シルト層(?W層)とそれを不整合に覆う河成堆積物(上位より?T、?U、?V層と呼ぶ)およびそれらを変位させている南北走向で高角の断層帯が露出した。5)  北側のトレンチ(SH-2)の南壁面では、?T層を見かけ上西側を隆起させるように食い違わせている断層が認められ、これは現耕作土層の直下まで追跡できる。さらにここでは?T層、?U層、?V層は、それぞれ?U層、?V層、?W層まで食い違った断層変位構造を削剥してその上に堆積している。以上は、この地区でJVFの断層活動が、?W層堆積後に少なくとも4回、そのうちの3回は?V層堆積後に生じ、最新活動はきわめて近い過去にあったことを示している。6)  各層に関する14C年代測定の結果から、JVFの最新活動は、1650yBP頃以降にあったこと、それより以前では1680-2710(3390)yBP、3390-5130yBPの各時期および7230yBPの前にも活動したことが考えられる。また、最近においては、千数百年に一度の頻度で活動を繰り返していることが示唆される。
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