日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P721
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カスケード山脈西斜面における草原・低木林と地形
:航空写真と航空レーザ測量データを併用した分布図の作成
*高岡 貞夫スワンソン F. J.
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抄録

北アメリカの太平洋沿岸の山地では、1900年代以降に草原が樹木の侵入によって縮小したという報告が数多くあり、その要因には気候変化、林野火災の発生頻度の変化、羊などの放牧による草原利用の変化など諸説がある。本研究では、広域的な植生変動の特徴をとらえるための地図化作業の準備として、H. J. アンドリューズ実験林を例に植生図と地形分類図の作成を行い、草原・低木林の種類や分布の特徴を検討した。
H. J.アンドリューズ実験林は、カスケード山脈中央部を流れるマッケンジー川支流のルックアウト・クリーク流域にある。面積は6400haで、410~1630mの標高域に位置する。2000mmを超える年間降水量の約70%は11月~3月の期間に集中し、夏は乾燥して山火事が多発する。標高約1000mを境にPseudotsuga menziesii ssp. menziesiiが優占する温帯針葉樹林とAbies proceraやTsuga mertensianaなどが優占する亜寒帯針葉樹林とに分かれるが、稜線付近や山腹斜面の一部には、草原や落葉広葉樹が優占する低木林が成立している。
2009年撮影オルソ空中写真(1m)と2008年撮影LiDAR(1m)から作成された植生高データ(1m)を用いて、非森林性の植分(草原と低木林)を判読し分布図を作成した。またLiDARから得たDEMによって作成した等高線図と陰影図の判読、および現地調査の結果から、地形分類図を作成した。
調査地域の上流部には氷食谷があり、最上流部にある北向きのカール壁やカール底にはAlnus crispa ssp. sinuataやAcer circinatumからなる低木林が成立していた。また調査地域のほぼ全域で地すべり地形が卓越し、それらのうち新しい地すべり地を中心にして、小面積の低木林や湿性草原が散在していた。また、地すべり地形の存在しない、主稜線付近の平滑な斜面のうち、特に南向きの斜面には湿性および乾性草原が成立していた。
低木林の成立には、地すべり等に伴う未発達な土壌と、雪が遅くまで残ることが関わっていると考えられる。一方、草原は立地の違いにより優占種は異なるものの、稜線部においては、いずれも火災の発生頻度が高い場所に多く成立すると考えられる。これらの草原の広がりの変動は、火災発生頻度の変化の影響を受ける。一方、地すべり地に成立する草原は、その成立や維持に対して、火災の影響が小さいと考えられる。

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