抄録
1. シンポジウムのねらい
2004年頃より始まった日本におけるジオパークの活動は,学会,地方自治体などからの多くの協力者,賛同者を得て,着実に成果を上げてきた. 2011年7月現在,世界ジオパーク4ヶ所,それらを含む日本ジオパーク14ヶ所と各地にジオパークが誕生し,地形や地層の露頭をはじめとする様々な大地の遺産が保全され,教育やツーリズムに活用されている.審査機関である日本ジオパーク委員会や,各地のジオパークによって構成される日本ジオパークネットワークなどのも組織され整備が進んでいる. 近年,ジオパークの活動に関する議論が,国内外で盛んに行われるようになった.特にGeotourismに関する議論が盛んである(Dawling and Newsome, 2010; Erfurt-Cooper and Cooper, 2010; Newsome and Dawling, 2010).2009年には,GeoheritageというJournalも発行されるようになった.日本国内においても,ジオパークの考え方の普及や各地のジオパーク紹介のフェーズから,ジオパークに関する専門的な議論蓄積のフェーズへと移りつつある.このような傾向は,「地学雑誌」(東京地学協会),「地図」(日本国際地図学会)といった学術誌でジオパークの特集号が作られていることから読み取れる.日本地理学会では,ほぼ毎年ジオパークに関するシンポジウムが開催され,秋季大会ではジオパークに関連する巡検も行われている. 本シンポジウムでは,九州におけるジオパークの現状を,各地域のジオパークの運営に携わっている研究者に,それぞれの地域のジオパークでの工夫,改良点や問題点について講演していただく.また,ジオパークを研究対象としている研究者から,自然,人文,それぞれの立場から九州のジオパークを分析していただく.それらを踏まえ,九州のジオパークの活動をより発展させていくための方策や,地理学的視点による資源の発掘や再構成の可能性について討論したい.日本地理学会は,ジオパークの活動をサポートしている他の学会と異なり,自然,人文,社会科学者が集まる学会であり,保全,教育,ジオツーリズムを活動の柱とするジオパーク活動に対して,ユニークな貢献ができる学会である.このシンポジウムでの議論を通して,九州各地のジオパークでの,様々な新しい展開が生まれることを期待したい.
2. 九州のジオパーク
九州は,世界ジオパークである島原半島と,日本ジオパークである阿蘇,天草御所浦,霧島の計4ヶ所のジオパークがある日本のジオパークの先進地域といえる.この積極的な取り組みは,古くより,温泉などの地学的資源を観光に活かしてきた地域ならではといえる.一方で,天草御所浦以外は活火山の地域であり,減災は地域社会における重要な課題である.その取り組みも,積極的に行われている.