抄録
ラオスの山村ではいまなお多くの人が焼畑で米を得ている。しかし、有力な現金収入源がないのが問題である。この中にあって、ウシ飼養は可能性をもっている。ウシ飼養は焼畑を営む人が古くから行なってきた生業で、人びともそのノウハウを蓄積している。また、人口密度が低い山地でこそ有利な生業である。しかも、一頭あたりが高価で高収入が望める。価格も安定している。 ところが、焼畑を営む人びとによるウシ放牧の実態についてはほとんど明らかにされていない。ウシは森林や収穫後の焼畑で自由に放牧される。飼料もほとんど与えられず、畜舎が造られることも少ない。所有者が見に行くのも週に1〜2回程度で、その際に自身のウシに塩を与えて手なずけられる。こういったことはよく知られている。しかし、より詳細な事実についてはいまだ未知の部分が多い。 2011年3月に長年通っているルアンパバーン県シェンヌン郡カン川周辺の4つの村でウシ飼養の実態について調査を実施した。その結果,以下の点が明らかになった。 まず、シェンヌン郡でのウシ放牧地として重要なのは石灰岩地帯である。石灰岩地帯は山地の最も高所にあり、森林はあまりなく、チガヤの草原が広がる。このチガヤがウシの最も重要な飼料なのである。村人によると、石灰岩地帯で焼畑をするとチガヤがはびこりやすいという。村人は毎年乾季にこのチガヤ草原に火を入れ、更新している。 また、ウシ放牧は焼畑とも密接な関係がある。ウシの主な飼料は草本であるため、2〜3年目の焼畑休閑地も放牧地として好まれる。人びとは放牧地内でも積極的に焼畑を行ない、草地を増やそうとしている。ある事例では、数年後に放牧地とすることを見込んで、焼畑の土地選びがなされていた。 チガヤ草原でも数年放牧を行なうとチガヤが根絶し、ユーパトリウムに置き換わることが多い。そういった場合も再度そこで焼畑をすればチガヤが再生する。しかし、近年は高地の集落の多くが低地に移転した。そのため、石灰岩地帯で焼畑がなされなくなり、チガヤ草原が減少している。発表では2011年8月に実施する現地調査の結果もあわせて報告したい。