日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 318
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フランス,トゥールーズにおける航空宇宙産業とクラスター政策「競争力の極」
*岡部 遊志
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抄録

1,はじめに
 フランスではクラスター政策として2005年に「競争力の極」政策が開始され,現在71の極が設定され,国と地域圏(他の国での州)により運営されている.この中でも強力だとされているのがフランス南西部に位置する航空宇宙産業クラスター「アエロスパース・ヴァレー」である.ここではその背景にあるトゥールーズの産業と政策の実態について発表を行う.

2,トゥールーズにおける航空宇宙産業集積
 トゥールーズは人口約40万人(都市圏人口110万人)を有するフランス南西部の都市であり,周辺地域の経済的,行政的な中心都市となっており,エアバスの生産拠点がある都市としても知られている.
 トゥールーズの成長は,航空機産業の発展と政府の地方分散政策によるものとされている.フランス政府はドイツからの侵攻に備え,ドイツ国境から最も離れたトゥールーズに軍用航空機の製造拠点を構築した.また,同じ時期にトゥールーズは航空郵便の拠点として栄えた.第2次世界大戦後は航空機生産の中心地として発展し,1970年代にはエアバスの本拠地がトゥールーズに置かれるなどした.また,1960年代の国土整備においてトゥールーズは地方分散政策の対象になり,ICT関連の工業や航空宇宙産業に関する大学校がパリから移転した.
 このような経緯を経て,現在,トゥールーズは,エアバスの生産拠点を有する航空産業の中心であるほか,国立宇宙センターやICT関連の企業も立地している.これらの地域経済への影響は大きく,トゥールーズが属するミディ・ピレネー地域圏の工業従事者数約15万人のうち,航空宇宙関連産業が約6万人,ICT産業は4万人を占める.
 これらの産業はトゥールーズとその周辺の自治体に多く立地しているが,航空産業は市の北西部,宇宙産業や研究機関は市の南東部に,産業ごとに集積している.

3,クラスター政策の意義と課題
 アエロスパース・ヴァレーはトゥールーズを中心とし,ミディ・ピレネー,アキテーヌ両地域圏にまたがる航空宇宙産業に関するクラスターであり,300社以上の企業,約65,000人の雇用者を有する.
この政策は,政府と地域圏が共同で遂行しており地方分権に適したものとされている.また,企業と研究機関が共同でプロジェクトを実行するプラットフォームを作ったこと,都市部だけではなく地域圏全体の発展を想定していることも特徴である.
 しかし,政策遂行における国の影響がいまだに強いこと,既に存在する生産システムをクラスターとして認定しただけであり,政策の効果が不明瞭なこと,中核となる企業が都市部に集中しており不均等な発展を助長する可能性があるといった課題もある.

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