抄録
シンポジウムの目的:
地理教育研究は,これまで学校教育(小・中・高)における地理教育の内容や方法に関するものが中心であった.1980年代以降は,将来教員になる教員養成大学・学部の学生のためのカリキュラム,制度,教育内容などについても学会レベルで取り上げられるようになっていった.しかし,地理教育に直接携わる現職教員を対象とした教員研修のあり方については,木山(1987)による実践記録などが散見されるものの,これまで組織的に検討されることはなかった.我が国の学校教育における地理教育の活性化を図っていくためには,地理教育を現在直接的に担っている教員の指導力向上は不可欠であるといえる.そこで,地理に関わる教員研修の現状や課題を,学会として具体的に共有していくきっかけにするため,上記テーマのシンポジウムを企画した.
教員研修の諸形態:
教員研修には,主催する機関・組織の側面から見て,さまざまな形態のものがある.現時点では,次のような分類が可能であると考えられる.
A:都道府県や市区など,自治体が設置した教育センターや教育研究所が主催し,当該自治体に所属・勤務する教員を対象に実施する研修.従来から実施されてきたもっとも一般的な形態である.この形態の研修は,指導主事という職掌の者によって企画される場合が多い.地理学関係の大学教員が講師として招かれる場合も少なくない(岩本ほか2010).
B:都道府県や市区郡など自治体の支援のもとで活動している任意組織としての研究会(例:東京都中学校社会科研究会)が主催し,実施する研修.これも,従来から盛んに行われてきたものである.関係教員間で互選により選ばれた幹事教員が企画・運営する場合が多い.「研究発表会」や「大会」といった名称を冠した研究集会の場合も多々見られる.また,この全国組織による形態もある(例:全国地理教育研究会).
C:学会が主催し実施する形態.学会の社会貢献活動の一環として行われるもので,日本地理学会地理教育専門委員会が実地している「地理教育公開講座」や人文地理学会地理教育研究部会が実施している「地理教育夏季研修会」はその一例である.地方学会が実施している例も見られる.
D:学校単位で,当該の学校に勤務する教員を対象に実施する形態.校内の研修担当教員が企画することが一般的である.これに学会が支援をする場合もある.
E:いわゆる「教師サークル」が自主的に企画し,実施している形態.求心力を備えた教師が中心になって自然発生的に生まれ,継続されているものが見られる.研修に必要な経費は参加者が自己負担するケースが一般的である.
F:教科書会社など民間企業をバックにした任意組織が主催し企画する形態.参加費は徴収するが,必要な経費の相当部分を民間企業が負担することもある.
G:教員免許更新講習.教員免許制度の改訂を受け,平成20年度から全国一斉に始められたものである.大学などが企画し実施する場合が多い.
H:その他:
以上は,コーディネーターのひとりである岩本が得た限られた情報をもとに分類を試みたもので,便宜的な分類である.今後の検討により変更がなされることはあり得る.
今回のシンポジウムの構成
今回のシンポジウムで取り上げるのは,上記のうち,AおよびCに位置づけられる教員研修である.Aに関しては,指導主事として企画に従事した立場と研修を受講した立場の両面から発表を構成した.また,Aには,大学教員側から協力して実施した事例も取り上げる.Cに関しては,日本地理学会地理教育専門委員会と人文地理学会地理教育研究部会が企画・実施した事例を取り上げる.
以上の発表および発表にもとづき,テーマについて多面的な議論が展開されることを期待している.
<文献>
木山高美(1987):教員の社会科臨地研修会のあり方-15年間の継続を通して-,新地理35-3,pp.45-50.
岩本廣美ほか(2010):全国の教員センター等における中学校社会科地理的分野に関する教員研修の実施状況,日本地理学会予稿集86,p.123.