抄録
Ⅰ.はじめに
高齢化による医療需要の高まりと医師不足を背景として,ICTを活用することによって,市町村,二次医療圏などといった地理的境界,医療,介護といった職種の境界を超えて診療情報を共有する地域医療連携が普及し始めている。しかし実際には,ICTを活用した地域医療連携システムは,それぞれの地域の特性を踏まえて不均一に普及している。本発表は,地域医療連携システムの普及動向を把握するとともに,ID-Linkという地域医療連携システムの先進事例をもとに,地理的側面からその普及プロセスを検討する。
Ⅱ.地域医療連携システムの普及に向けた施策
現在,国によって標準化された用語・コードのマスター構築やデータ交換規格の標準化などの基盤整備が一部進められているものの,いまだ完全な標準化には至っていない。一方,データリンク型は,①新たにデータセンターを構築するコストがかからない,②地域に分散する患者の診療データを統合して閲覧できる,③他社の電子カルテを導入する病院と連携できる,④維持費用が安い,という4点から急速に普及している。ただ,マルチベンダー間の情報共有を可能にするシステムは,NECのID-Link,富士通のHuman Bridge,NTT東日本の光タイムラインなど,複数のベンダーからパッケージとして提供されており,相互に競合している。
Ⅲ.ID-Linkの普及プロセス
本発表では地域医療連携システムの事例として,データリンク型の一つ,ID-Linkの普及プロセスを検討する。ID-Linkは,情報サービス業のエスイーシー(北海道函館市)が日鋼記念病院(北海道室蘭市)にプロトタイプを開発したことに始まる。開発担当者は,市立函館病院(北海道函館市)の副院長とも親交があり,回復期の患者をスムーズに転院させることによる経営効率の改善を目的として,2006年,ID-Linkのプロトタイプを開発した。2007年にID-Linkのテスト運用が開始された後,2008年4月に「道南MedIka」として運用が正式に開始された。2012年5月現在の情報公開施設は,2008年8月の2施設から7施設へ,閲覧可能施設は,同期間に29施設から61施設へ増加するとともに,医療機関だけではなく,調剤薬局や居宅介護支援事業所,訪問リハビリステーションへと幅広い関連分野からの参加がみられるようになった。
ID-Linkによる情報公開施設数は,富士通のHuman Bridgeサーバーと連携して長崎県全域で展開する「あじさいネット」,庄内地方の「ちょうかいネット」など急増している(図)。普及が進んだ地域の特性についても概観する。