日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1302
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発表要旨
脱成長時代における東京大都市圏の空間構造の変容
*小泉 諒
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抄録

本報告では,2010年の国勢調査結果を用いて「脱成長時代」における東京大都市圏の空間構造の変容を1)人口増減,2)世帯構成,3)通勤圏の三点を中心に報告する.なお本研究では「東京大都市圏」を,1990年~2010年の国勢調査従業地集計において,東京特別区部(以下,区部と表記)への就業者数が,その地に常住する就業者数の5%を一度でも超えたことのある市区町村と定義する.
1)人口増減バブル経済による地価高騰ならびに崩壊後の景気低迷期には,特別区ならびに東京大都市圏からの人口流出がみられたが,2000年以降は「都心回帰」と表現される都心部での人口回復が確認される.2005年~2010年では,5%を超える人口増加が東京駅から30km圏内を中心にみられ,新規に開通した鉄道沿線や湾岸部の超高層マンションがその受け皿となったことを示している.
2)世帯構成人口の増加以上に,世帯総数の増加が著しい.とりわけ都心部における単身世帯の増加の寄与が大きい.区部でも江東区や港区など湾岸部では,乳幼児のいる核家族世帯が大幅に増加した.
3)通勤圏区部への通勤率に基づく東京大都市圏の範囲は,対象年次によって多少変化がみられる(図1).2005年~2010年では,政令市政都市に移行した相模原市緑区やTXによって東京に直結したつくば市などで区部への通勤率が5%を超えた.一方,郊外での就業機会の増加に伴って,埼玉県越生町や千葉県成田市などが5%を割り込んだ.区部の昼間人口は増加を続け,2010年に1170万人を超えた.また,2010年の特別区部就業者の年齢構造に着目すると,第一次ベビーブーム世代を含む1945~1949年出生コーホートの退職が進み,第二次ベビーブーム世代(1970~1974年出生コーホート)を頂点とする凸型の構成となった(図2).
以上から,東京大都市圏では人口増加が続くものの,面的な拡大はほぼ止まった.ライフステージからみると,未婚化と少子化の進行で小規模世帯はさらに増加し,広い住居を求めての郊外転居は減少すると考えられる.郊外での雇用創出や区部での住宅取得可能性が高まる中,東京大都市圏内の通勤流動は複雑化し,空間的には縮小していく可能性がある.

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