抄録
中国山地西部,山口県伊陸盆地およびその周辺部の地形発達と地殻変動について検討した。同盆地においては,長野-日積断層帯の活動によって北西側が相対的に隆起し,沈降した南東側では厚い砂礫が堆積したものと推定される。それとともに,流域が沈降した由宇川は急勾配化し,特に同断層帯に沿う部分で侵食力が増大したか,または古四割川側から溢流して由宇川による争奪が発生したものと考えられる。大畠瀬戸付近においても同様に,大畠断層帯の活動の影響で河川争奪が生じた可能性が考えられる。巨視的にみると,岩国断層帯より南東側の地形は北西方向に傾動する複数の傾動地塊からなると考えられる。各断層帯の活動が活発化し各断層角盆地の形成が明瞭になるにつれて,古四割川水系河川は下流側が相対的に隆起する各断層帯を越えて北西~西流しにくくなった。それとともに,相対的に沈降した各盆地周辺部の河川が急勾配化して侵食力を増大させ,日積低地と大畠瀬戸で大規模な河川争奪が発生したものと推定される。